番外篇 城戸禮

序文のための序文(2000.8.15)

 この文章は、一九九七年五月頃より別のサイトに「日本文學發掘シリーズ」として公開していたのを、サイト移設を期にこちらへ持ってきたものである。
 シリーズと称しながら結局城戸禮しか発掘できなかったのは残念である。

序文

 春陽堂という出版社がある。この出版社の文庫が「春陽文庫」であり、ここにはかつて時代小説を中心に多くの作品が収録されていた。現在では春陽文庫を書店の棚に見かけることはめっきり減ってしまい、大きな書店でも江戸川乱歩や柴田錬三郎の作品をいくつか揃えている程度になってしまった。
 文庫本にはいちばん後ろの数頁を費やして自社の作品一覧が掲載されていることが多い。日頃あまり眼を通すことのない部分であるが、先だって古い春陽文庫で乱歩を読み返した折、何気なく眼に触れたこれらのページで私はのけぞった。ものすごい作品群を発表している作家がいたのだ。
「城戸禮」という作家をご存じだろうか。私は知らなかった。私はかなり読書家であると思っていたのだが、その私のあずかり知らぬところで衝撃的な小説を数十冊も上梓している作家、それが「城戸禮」なのであった。
 春陽文庫の作品一覧で、その作品の題名を見ることしかできない作家、城戸禮。未だに見知らぬ作家、城戸禮。
 ここでは彼の驚天動地の作品群をご紹介することにしよう。題名しか知らぬのにどうして「ものすごい」だの「驚天動地」だのといえるのか、それは以下の文章をお読みになれば自ずとご理解いただけよう。
 ところで「城戸禮」は何と訓むのだろう。とりあえず、勝手に「きどれい」と発音しているのだが、いいのかな。

城戸禮はハードボイルド作家なのか

 いくつかの城戸禮作品の題名である。ご覧ぜられて、いかなる感想をお持ちになろうか。
 一見よくあるハードボイルド小説のようである。七五調の題名が目立つのは時代のせいだろう。当時は映画でも「ギターを抱いた渡り鳥」、「夕陽が俺を呼んでるぜ」など七五調のものが多かった。現代の感覚からすると、ハードボイルドに七五調はちょっとどうかとも思うが、それは言っても仕方ないことだろう。

「鉄拳風来坊」はこぶし一つで渡世をする無頼を描いた作品なのだろうか。
「十字火撃ちの男」という題名はもしかしたら幻の社会派映画「十字砲火」からとったものかもしれな い。
「拳銃街を行く男」はハメットの「血の収穫」のような緊迫したハードボイルドであろう。
「夕陽を背にして立つ男」は夕陽を背にして立つ男を描いた佳作であるに違いない。
 だが、これくらいで城戸禮を知ったつもりになってはいけない。

城戸禮は快男児なのか

  1. 猛襲快男児
  2. 大暴れ快男児
  3. 大学の快男児

 この三作品を「快男児シリーズ」と呼んでおこう。1.と2.では快男児が猛襲をかけたり大暴れする筈だ。そして、この時点では主人公の快男児はまだ高校生であるのだろう。なんとなれば3.ではじめて大学に進学しているように推測せらるるからだ。3.が正篇で、1.2.が続篇である可能性は薄いといわざるを得ない。初めから大学生の主人公ならば「大学の」という但し書きはいらぬのだから。
 漫画でいうなら「ハリスの旋風(かぜ)」(テレビ放映名「国松さまのお通りだい」)のような内容であろうか。腕っぷしは強いが、情に厚いお人好しな快男児が主人公だ。
 と思っていたら、新たな事実が判明する。

大学のシリーズ

  1. 大学の快男児
  2. 大学の人気者
  3. 大学のつむじ風

 なんと、「快男児シリーズ」と思われていた「大学の快男児」は実は「大学のシリーズ」の正篇でもあったのだ。
「大学の快男児」を軸に二つの作品世界を連結させる。いやはや城戸禮、なんとも技巧派である。
 かと思いきや。

城戸禮はつむじ風(ナッキー)

  1. 大学のつむじ風
  2. つむじ風男一匹
  3. つむじ風社員

 ここに我々は第三の作品群「つむじ風シリーズ」を見ることになる。
「大学のつむじ風」では、大学に巣食う不良グループと「つむじ風」が対決することになる(のだと思う)。「つむじ風」はその恋人(もちろんプラトニックな関係)を不良グループに掠われ、苦境に立たされながらも最後には一味を大学から追いやり恋人を取り返してハッピーエンドとなる(のだろうな)。
「つむじ風男一匹」では大学を卒業した自称「つむじ風」がとある港町でならず者を相手に大立ち回りを演ずるのである。なぜ自称とわかるかといえば、見知らぬ土地で人がいきなり「つむじ風」と呼んでくれる筈はないからである。

「おいらのことはつむじ風とでも呼んでくれ」
「まあ、つむじ風。イカすわね」

 などという会話があるに違いない。賭けてもいいが一人称は「おいら」だ。
 この二つまでは許そう。しかし「つむじ風社員」はちと困るのではないか。こんなやつ同僚にしたくはない。上司だってきっともてあますぞ。
 だが、つむじ風を社員にしたくらいで満足している城戸禮ではないのであった。その過激さはとどまるところを知らない。

社員城戸禮

  1. つむじ風社員
  2. タックル社員
  3. 三代目社員
  4. 爆発喧嘩社員

 これで第四の作品群「社員シリーズ」の存在を認めぬわけにはいかなくなった。
 今度は「つむじ風」を基軸に転回。なんとも重層的な城戸禮ワールドである。
 ここで城戸禮、大ブレイク。
 時代はまさに高度経済成長期。源氏鶏太のサラリーマン小説が愛読され、映画館では植木等の「無責任シリーズ」がヒットしていた(のだと思う)。
 時代と寝たか、城戸禮。だけどあまりにラジカルだ、城戸禮。
 どいつもこいつも絶対同僚にいてほしくない奴ばかりではないか。

「三代目社員」はやはりヤクザの三代目か。つかこうへいに「二代目はクリスチャン」ってのがあったけど。あるいは「静かなるドン」のようなものか。
「タックル社員」って何なのだ。タックルしてくるのか、やはり。うれしいといってはタックル。悲しいといってはタックル。「ひらめけー。ひらめけー」と言ってはタックル。
「爆発喧嘩社員」にいたっては恐ろし過ぎる。

「君、この書類だけどね。ちょっとミスがあるんじゃないのか」
「うう、わんわん。なんだとっ。俺の書類にミスがっ。てやんでえっ、こちとら神田の生まれよっ。ちっちっちっちっち、どかん。もくもく」

 みたいな話かな。とても読んでみたい。
 どうでもいいけど、まさか、こいつらみんな同じ会社に勤めてるって設定ではないだろうな。

城戸禮意味不明

 さて、ここで分類不可能な城戸禮作品を紹介しておこう。

 何がなんだかさっぱり訳が判らない。
 多分「快男児」と関係あるんだろうな。もしや、主人公は左翼の熱血漢か。

 何だろう。何かしら。「はりきり」で「スピード」で「娘」。多分、はりきってるんだろう。それは推測できる。
 でもスピード娘ってなんなのだ。すぐに行っちゃうのかな。ううむ、どこへだ。もしかしたらいやらしい意味で言ってるのか、私は。
 同じ時代に三島さんは「腹きり」してるのに、はりきってる場合ではないと思う、多分。

三四郎シリーズ

 ついに、「三四郎シリーズ」について言及しなければならぬ時がきた。城戸禮作品中で最大のシリーズ、それが「三四郎シリーズ」である。

かけだし三四郎
まだまだ駈け出しです。よろしく。
早わざ三四郎
ちょっとは成長したかな。
ぶっ飛ばし三四郎
三四郎は技を身につけた。次のレベルまであと100ポイントです。
拳豪三四郎
やっと一人前になった。
風車投げ三四郎
おお、それは強そうな技だ。
嵐を呼ぶ三四郎
まさかドラマーだったりは、しないんでしょうね、城戸禮先生。
竜巻三四郎
嵐を呼んでたかと思ったら、竜巻になってしまった。
いなずま三四郎
雷さまになったようだ。
流星三四郎
お星さまになったようだ。
野良犬三四郎
いかん。道を外れておるぞ。更生するのだ、三四郎。
向こう見ず三四郎
向こう見ずはいかんぞ。
無鉄砲三四郎
無鉄砲もいかんぞ。でもこれって、「向こう見ず」とどう違うの。
抜き撃ち三四郎
飛び道具を使うのはもっといかんぞ。卑怯なり、三四郎。早く更生せよ。
よしきた三四郎
ありがとう。真人間になってくれたんだね。
旋風三四郎
もしや「つむじ風シリーズ」と関係があるのでは……。
つむじ風鉄腕三四郎
と思ったら、とうとう「つむじ風」そのものが登場してしまった。嗚呼。
不敵三四郎
向かうところに敵はなし。
無敵男性三四郎
「あたるを幸い、ばったばったと切り倒し薙ぎ倒し、千切っては投げ、千切っては投げ」(講談口調で) これは「旋風」>「つむじ風鉄腕」と同じ流れですね。類義語の時はもう一つ修飾の語を付け足すのです。
超特急三四郎
本当に超特急に乗ってるわけではなく、素早いことのメタファーですね。超特急三四郎に、はりきりスピード娘……。
はやぶさ三四郎
本当に特急「はやぶさ」に乗ってるわけではなく、素早いことのメタファーですね。
地下鉄三四郎
本当に地下鉄に乗ってるわけではなく、メタ……、って、地下鉄は遅いじゃないか。本当に地下鉄に乗ってるのか、三四郎。地下鉄に乗るのが一篇の小説足り得るのか。もしかしたら、地下鉄に乗って初めてのおつかいにでも行くのか三四郎。
のんびり三四郎
地下鉄に乗ったと思ったらのんびりしてしまったようだ。
若旦那三四郎
なんや、三四郎はん。あんたはん、ええしのボンやったんですか。若だんさんでんがな、まんがな。シルバーナ・マンガーノ。「苦い米」(無意味炸裂)
痛快三四郎げんこつ市長伝
うわあ。三四郎が市長になるのか。もとアクションで鳴らして市長になるって、あんたはクリント・イーストウッドか。それににしても「げんこつ」って何。あるいは一日市長かもしれない、アイドル歌手みたいに。ということは、さっきの鉄道シリーズももしや「一日車掌さん」か。

 いかがだったであろうか。爆裂ミラクル城戸禮ワールドの数々。(ああ、伝染ってしまった)
 惜しむらくは、これらの作品を手に入れることができないのだ。絶版になってしまっているのだろうか。もしそうならこれは日本文學にとって大きな損失と言わざるを得ないだろう。春陽堂さん、お願いです。即刻これらの作品を復刊してください。岩波みたいに「復刊」っていうこと自体を売りにしてしまえばいいんですって。少なくとも私は買います。そこのあなた、あなたももちろん買いますよね。

新三四郎シリーズ

 さて、しばらくの後、最近の春陽文庫の最終ページを開いた私は眼を剥いた。なんと、そこには城戸禮の新作の数々がいま だに列挙されていたのだ。
 私はしばし、懐かしい友人にあったような感慨にふけっていた。嘘だけど。

 なんと三四郎、刑事になっているのだ。これを「新・三四郎シリーズ」あるいは「刑事三四郎シリーズ」と命名したい。
 しかしどれもこれも困った刑事ばかりだ。

 漢字+カタカナ+「刑事三四郎」である。
「便所コオロギ刑事三四郎」
「千々石ミゲル刑事三四郎」
「失神エクスタシー作家川上宗薫」
 ああ、間違えた。でも、これならいくらでもできそうだな。って、題名だけでじゃなく中身を書かないといかんのか。やはりすごいぞ、城戸禮、それがどんな内容であっても。

「刑事三四郎シリーズ」から「三四郎」がとれて、「刑事シリーズ」になりました。
 大好評蒲団圧縮袋にパッチンクリップがついて、さらに便利になりました。
 マグナムとショットガンは許そう。しかし、バズーカ持った三四郎に出撃されてもなあ……。そういえば、ダーティハリーでもバズーカ撃つ続篇があった。ここでも、三四郎とイーストウッドの相似関係が。

 まだ見ぬ憧れの作家城戸禮。私の住む大阪では旭屋、紀伊國屋といういちばん大きな書店ですら入手不可能なのである。カッパ横町の古本屋にも、難波球場の古本街にもない。どなたか城戸禮についてご存じのかたがいらっしゃったら、是非ご連絡ください。

城戸禮情報集まる

 この文章を公開し、一年くらい経ってからぽつぽつ間歇的に城戸禮に関する情報をお寄せいただきました。ありがとうございます。

 ホームページを拝見して、非常に懐かしい思いにひたっております。
 私が城戸禮(きどれい)の作品を読んでいたのは、もう25,6年前の高校生の頃になります。当時の春陽文庫は時代小説、推理小説、大衆(ユーモア)小説の3本立てだったと思うのですが、中でも城戸禮は大衆小説の中心的な作家でした。
 三四郎シリーズの主人公である「三四郎」は、「竜崎三四郎」というのが本名で、超ハンサムで柔道の達人なのですが、この「三四郎」が大学生、サラリーマン、刑事、新聞記者、スリ……というように作品ごとに違ったシチュエーションで登場し、柔道を武器に悪人(ライバル)を倒して、最後は恋も獲得してめでたし、めでたしというのが大まかなストーリーです。
 作家の「城戸禮」については、自伝を読んだことがありますが、本人も柔道、剣道の達人で「三四郎」のモデルでもあったようです。たしかその当時娘さんが2人いたのですが、長女が知的障害者で、ずっと寝たきりの状態だということでした。
 文庫についてはほとんどもっていたのですが、残念ながら何年も前に手放してしまい、手元には一冊も残っておらず、春陽文庫のホームページを見ても、すでに廃刊になっているようです。
 私も以前から、また入手したいと思っていたので、春陽文庫に再刊を要望してみるつもりです。

斉藤和彦さんより

 なるほど。やはり想像どおりの予定調和物語のようですね。源氏鶏太なんかと並んで売れっ子だったのでしょうか。
 かなり能天気な作品のようですが、私生活の大変な部分を片鱗も見せずに、そういった作品を量産していた城戸禮というの作家はかなり恰好いいと思います。

 おなじく斉藤さんより、WEB上で検索したら引っ掛かったという文章をいただいたので全文引用します。オリジナルのテキストの所在が判らないのですが、もしここに引用することに弊害があるようなら関係者のかたご連絡ください。

『タックル社員』(城戸禮/春陽文庫)
 城南大で名ラガーとして名を馳せた竜崎三四郎は、そのうえ美形で、出会う女はみんな彼に惚れてしまうが、当の本人は女嫌い。性格も真っ直ぐで、名選手だから採りたいという就職口をすべて断ると、看板扱いしないでくれそうな日東建材に、親友の伴大六とともに入社した。ところがそれがとんだアテ外れで、ワンマン社長の性格に嫌気がさした三四郎は、伴とともに会社を飛び出す。後輩たちと酒を飲み、ヤクザ相手に大立ち回りを演じた挙句、次に決まった就職先が東洋建設。椎名ビル建設の権益をめぐって、日東建材とライバル関係にある会社だ。三四郎と大六は、ラガーマン持ち前のがむしゃらさで、契約獲得にタックルをかける……。
 昭和39年初版発行で、昭和50年には49刷というから、その当時の人気小説と言ってもいいだろう。これがまあ御都合主義のオンパレード。大学で見かけた美少女は新会社の社長の姪、飲み屋で絡んできのは元の会社の現場担当者、電車内で撃退した痴漢紳士は取引先の重役で、街で追いかけてきたのが取引先の社長の孫娘といった具合。相棒の苗字が伴というのは、何やら梶原一騎ふうだが、主人公の性格は星飛雄馬よりも純朴だったりして、何だろう、この当時の大衆娯楽小説の、この在り方は。いや、小説に限らず、たとえば当時の大衆娯楽映画(日活アクションとか)でも、だいたいこういった御都合主義的、非日常的作劇法は、健在だったような。技術水準からすれば本当に幼稚なのだが、誰も嘘臭いなどと文句を言ったりはしない。痛快ならばそれでいいじゃないか。その開き直りが、今日の目で見ると、ある意味で小気味良い。

斉藤和彦さんのメールより孫引き

 また、北海道千歳市を中心に「絵本パフォーマンス」という活動をしていらっしゃる岸田さんより、以下のような二通のメールをいただきました。

 はじめまして。まだ、城戸禮(きどれい)の情報お求めでしょうか。
 私は、城戸さんの大ファンで、せっせと春陽文庫版を集めているものです。が、実に謎の多い人で、知る範囲でお教えします。

 多分、一番有名なのは赤木圭一郎主演「拳銃無宿・抜き撃ちの竜」の原作でしょう。ほかにも結構多くの映画の原作になっています。
 生涯作品数は300とも言われていて、春陽文庫でも50版とかあるので人気だったと思われますが、あまりに知られていません。
 1909年生まれ。没年は1995年頃と思われますが、新聞を調べ、出版社にも問い合わせましたがはっきりしません。うーん、謎。
 青樹の刑事シリーズは31巻出てます。最後が1994年なので多分間違いないです。死ぬまで三四郎を書き続けていたのですね。ほかの主人公ではほとんどありません。女の子を主人公にしたものも、ちゃんと三四郎や類似キャラが登場します。
 刑事シリーズは竜崎三四郎と壇竜四郎の二人が主人公で、背が高く、腕も立つ一卵性双生児みたいな二人。不思議だと思っていましたら、過去の作品で、大学の小天狗と称される柔道の達人に始まり、新入社員ものなどのライトサイドを受け持っていた「竜崎三四郎」と、暗黒街の拳銃無宿や世界的捜査官などダークサイド担当の「壇竜四郎」がいて、それが春陽版でなぜか全部竜崎三四郎に統一されました。その二人の夢の共演となったのが1980年の「拳銃刑事」です。
 ああ、書き出したらきりがないですね。この話題で、2時間は話せるので、まだ必要でしたらメール下さい。でも、私もいろいろ調べてる最中ですけれど。

岸田典大さんより

 城戸禮が日活のジェームス・ディーン、赤木圭一郎の主演映画の原作をやっていたとは知りませんでした。
 調べてみると、これは「拳銃無頼帖」というシリーズで全四作作成されたもののようです。

 このシリーズは、
  監督:野口博志
  出演:赤木圭一郎・宍戸錠
  原作:城戸礼
  音楽:山本直純
 というスタッフに、南田洋子や朝丘ルリ子というヒロインを招き一九六〇年に集中的に作られたようです。翌六一年に赤木圭一郎が死んでいなかったらもっとシリーズが続いていたのかもしれません。

 どこまで興味を持っていただけるかわかりませんが、城戸禮の続編です。

 国会図書館には、320冊の城戸禮の本があります。2〜3冊、同内容のものが出ていますので、実際書いたのは130冊程度かと。もちろんほとんどが「三四郎もの」ですが、何冊かは違います。
 中でも異色なのは、唯一のドキュメンタリーもの「風よこの灯を消さないで」です。彼の長女は小児麻痺で、育児に非常に大変な思いをしたようで、その病との戦いを描いています。
 半ドキュメント「おとぼけ軍曹」は、多分、自身の体験をもとに書いていると思われます。戦争を通じて知り合ったドイツ人との友情物語です。
 コバルト文庫、「美紗におまかせ」は、いつものトーンながら少女小説になってます。
 ちなみに、まじで読みたいと思うのでしたら、お近くの図書館で取り寄せてもらえます。千歳では、刑事シリーズはなぜか結構そろっています。国会図書館の本は、持ち出し禁止で、さらにコピー禁止なので、厳しいです。

岸田典大さんより

 斉藤さんのご報告にあった自伝というのもおそらくこの「風よこの灯を消さないで」なのでしょう。
 それにしても、コバルト文庫にも書いていたとは。城戸禮恐るべし、です。

ようやく城戸禮と出会う

 この文章を公開してから一年あまり、仕事で東京へ出向いた折り、八重洲ブックセンターへ立ち寄った。と、そこに、あったのである。春陽文庫城戸禮作品が。
「ありました」
 私は思わずそう呟いた。並んでいたのは「新・刑事シリーズ」と呼ばれる作品群で、私が勝手に「新三四郎シリーズ」と命名したものであった。
 とりあえず私は、
「拳銃刑事(デカ)三四郎」
「ガッツ武装刑事」
 の二冊である。後者は私が知らない題名である。
 東京からの帰りの新幹線で私はこの二冊を貪り読んだ。「のぞみ」の二時間三十分で二冊とも読んでしまった。
 内容は、というと、期待していたとおりの素晴らしいものであった。
 活劇シーンを一部引用する。

 運転していたやつがくりっとうつ伏すと、バッババーンッバーンッ、前輪の二つが見事なくらい、ぶち抜かれると同時に、ガガッガガガーッ、グワーンッ、襲ってきたデリバリーバンが、左右にと勝手に走ると、ガガッガガーンッ、グワーンッ、左の工場らしい建物のコンクリートの塀に激突、そして、その勢いで二、三回転すると、バッババーッバーッ、車体のむこう側に上がる炎。

『ガッツ武装刑事』城戸禮

 私はこのくだりを朗読してみたのだが、「ーンッ」という部分がどうしてもうまく発音できなかった。文字でしか表現できぬような文学的実験をおこなっているとは、やはり城戸禮ただものではない。
 もうひとつ引用してみよう。こんどは、竜崎三四郎がチンピラをやっつける場面である。

「あっ、ううーんッ」
 兄貴分のでかい体が、もんどり打つように一、二メートル跳びあがり、それからどさりっと、地面の上にたたきつけられている。
 電光、そして石火。目にもとまらぬ左右拳の猛撃である。
「どうせ、黙っちゃ引き下がるまいッ。ついでに付き合えッ」
 タッ、地をけるように横に飛ぶと、
「ああっ」
「うっ、げげーっ」
(中略)
 残りの二人が、ダッ、ドサッ、と、堅いコンクリートの上にふっ飛ぶ。あっという暇もないはね腰に小内刈り。みごとともいいたいほどの俊敏業。
「早いな。おネンネが。おおかみどもはお昼寝の時間か」
 長々とのびてる連中の傍らへ近づきながら、ブーツのかかとでやつらの右手の指を、ガッガッ、遠慮なく踏んづけると、
「あっ、あーっ」
「ぐっ、ぐえーっ」

『拳銃刑事三四郎』城戸禮

 タッ、ガッガッ。ぐっ。ぐえーっ。
 素晴らしい。城戸禮礼賛。

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1997.5/updated on 2000.8.15
文責:keith中村
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