第96回 蒟蒻問答


 ああ。ごほごほ。こんにちは。そいじゃ早速ですが始めるのです。今日も先週に引き続き同じテーマになるのですが、あ、そそ、この紙ね、これ。これを端から回してゆくので各自、自分の名前書いてくださいね。出席表です。はい、君お願いね。こらこら君ほんとにくるくる回してどうするのよ。きょう日小学生だってそんなことしないよ。
「いつもより余計に回しております」。
 馬鹿。つまんないこと言ってるんじゃないのです。こらこら、そこ。こんなお手軽なので笑ってどうする。はいはいはい。ま、よろし。ああ。ごほごほ。で、発明発見の経過とその現象学的解釈における蓋然性とヨーロッパの精神的危機ということについて話すのですが。まずひとつサンプルを挙げます。ガリレオ、知ってますね。ガリレオ・ガリレイね。彼は天井から釣られた燭台が揺れるのを見て振子の等時性を発見しましたね。そうそう。自分の脈を基準に計りながら振子は振幅に関係なく一定時間で往復することを発見したのですね。ええとね。はい、じゃあそこの君。うん君。この話を聞いてどんな感想を持ちまするか。
「ええっとお。あのお。天才はあ、どんなあ、ちっちゃなあ、こともお、見逃さずにい、偉大なあ、発見、っていうかあ、そういうの、するう、みたいな」
 ああっ。駄目だめ。そんな教訓めいたこと言ってる場合じゃないのよ。もっと現象だけに着目しなきゃ。はい、君はどう。きょろきょろしてるんじゃありません。明らかに君でしょうが。君っていったら君でしょ。そそ。あんたよ。何。うん。うん。
「燭台が揺れたんだから地震だったのかもしれません」
 ふんふんふん。そうそうそう。いい線いってますよ、君。あのね。この話から解ることはね。こうです。ガリレオは不整脈の持ち主ではなかった。ね。不整脈あったら振子の等時性なんて計れませんよ。人間健康がいちばんです。じゃ、別の例いきます。発明発見というのは半ば伝説化してるものが多いのですがね。何なにしてたら偶然これこれになったという奴です。ルアーってありますね。釣りに使う擬似餌ね。あれの起源にこういう話がありますね。ある家族がピクニックに行ってボートの上でランチを食べてた。子供が誤ってスプーンを湖に落としてしまったところ魚が餌と間違って咥えて行った。これをヒントにルアーが発明された、というのです。はいでは君。この話から何を感じますか。
「はい。現実は厳しいと」
 ほうほう。どういうことでしょう。
「お伽話なら、こうなるでしょ。『あなたが落としたのはこの金の匙ですかそれとも銀の匙ですか』。そうなりませんもんね」
 おお神よ、何を言っておるのでしょう、この人は。中勘助か、君は。跳び蹴るよ。じゃ、君はどうです。
「ええと。ううんと。解りません。匙を投げます」
 大喜利やってるんじゃないんだから。いい加減にしなさいよね。ああ。ごほごほ。いいですか。この話はね、こういうことですね。わざわざスプーン持ってボートなどに乗るじゃない、と。陸で食べなさい、陸で。でまあ、このパターンの話では「勿体ないから食べちゃった」というのが屡々出てきます。私はこれを「みっちゃんテキスト」と呼んでいます。みっちゃん道道ね。たとえば紅茶の起源ですね。有名な話です。中国だかインドだかからヨーロッパへお茶を輸送してたんですね。ところが大時化で船が浸水してしまった。船倉のお茶は水浸しです。で、腐ったのか奇妙な色になってしまった。捨てるにも勿体ないのでひとりの船員が試しに飲んでみたら大変おいしかった、これが紅茶のはじまりである、と。変ですねえ。変な話です。だいたい海水に漬かったんならまずくて飲めたものじゃないでしょ。紅茶に塩入れて飲んだことある人いますか。いますか。ね、いないでしょ。似たものに納豆がありますね。大豆がたくさん穫れたので藁にくるんで保存しておいた。しばらくしたら腐ったようにねばねばしてきた。捨てるに忍びないので食べてみたらおいしかった。おかしいねえ。とってもおかしい。普通食べませんよ、そんなもの。そういえば昔、「ねばねばねばねば納豆」という歌がありましたよね。フットルースっていう映画の挿入歌でした。あれ、知りませんか。日本では確かピンクレディーの片っぽが唄ってました。さて、この話から判明することは、納豆は水戸に限るということですね、やはり。ちなみに秋刀魚は目黒に限ります。こんなのもありますね。あるレストランでフライドポテトを作らなきゃならないのに料理人がうっかりしててじゃが芋を薄くスライスしてしまった。捨てるのもちょっとあれなので揚げてみたらおいしかった。これがポテトチップスの起源だと。何故でしょうね、この手の類型的なパターンの話は食品に関するものが圧倒的に多い。ああ、そうそうこんなのもあります。ある人が温めた蒟蒻に挿してみた。ところがこれが良かった。すごくいい。その人は思った。世の中にこれほどいいものがあったのかと。はい、君。どう思いますか。
「……。あのお。あたし、よく解りません。女だしい。そのお……」
 どうしたんですか、君。顔が真っ赤ですよ。変な人ですねえ。何を言っておるのでしょう。何か誤解しておるのでしょうか。まあ、よろしい。とにかく、蒟蒻に串を刺した。これが田楽ですねえ。いやあ。本当にいいですねえ、田楽。やはり味噌が味噌ですね。ああ、もうそろそろ時間ですね。それじゃ今日はここまでにしておきますが、この辺り前期試験の中心内容になるのでしっかり勉強しておいてくださいね。では終ります。


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1998/04/21
文責:keith中村
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