第90回 パラノ名前


 それにしても、最近の若い人の名前はとんでもないことになっている。
 私の仕事のひとつにデータベースを扱わねばならぬというものがあり、とはいえこれまでは趣味で個人的にネットワークを組んでいただけの私であるからデータベースなどは初めてである。まさか個人でオラクルだとかSQLサーバーなどたててはおらなんだ訳であるからな。それでとりあえずマイクロソフトのアクセスなるデータベースを使えるようにならねばならぬ。そんなものは使ったことがない。一から始めなければならないのだ。そもそも私はいわゆる市販のアプリケーションというものをほとんど利用したことがない。ところが会社の人々はシステム管理者というのはコンピュータについてあらゆることを知悉しているなどという誤解を持っておるがゆえいろんなことを聞いてくるのだ。ワードでの章建ての方法など訊かれてもさっぱり解らぬのだよ。Vi の使い方なら教えられるが。エクセルでの集計など質問されてもちっとも答えられない。Awk で集計させるスクリプトを書けというなら任せておけと言えるのだけれど。そんなわけでアクセスなるソフトの使い方を勉強しはじめた。それで練習として会社の顧客のデータから珍しい名前を抜き出す仕組みを作ってみた。十代の人間のみに絞り込んで顧客の中でたった一人しかいない名前を抜き出してみたのだ。その結果、近ごろの若い人の名前がとんでもないことになっていることを発見したというわけだ。
 業務上の守秘事項やら何やらという堅いことは抜きにしていくつか紹介する。
 まず、「愛富」だ。アトムくんである。ちなみにウランちゃんもいた。「羽蘭」と書く。
 一太郎がいる。文章作成が上手いのだろうか。それとも下手なのか。数字の入っている名前はいろいろあるが、昔からある名前では「万作」などは桁が多いほうだろう。ところがもっと上がいるのだ。「那由多」「不可思」「無量」である。
 歴史上の人物と同じ名前もいるのだ。これが揃いも揃ってとんでもない。まず「須佐ノ男」である。それに「不比等」。それから「写楽」。何ということか。
 女子の人に多いのが何となく外国語っぽい名前である。男にもいるが、それほど多くない。「愛作」というのがある。アイザックから採っているのかもしれない。イサクであるからキリスト教徒なのかもしれない。「久瑠斗」でクルト、「理人」でリヒト、「貫人」でカントもいる。将来は哲学者か。どれもドイツ語っぽい。男では外国語めいたものはこれくらいである。
 女子の人を見てみよう。
   「麻友香」 マユカ
   「麻由良」 マユラ
   「佳恋」 カレン
   「瑠音」 ルネ
   「玲美奈」 レミナ
   「有璃愛」 ユリア
   「果千奈」 カチナ
   「恵愛」 エチカ
   「絵留美」 エルミ
   「満梨衣」 マリイ
   「万璃里」 マルリ
   「織歌」 オリガ
 どれもこれも暴走族めいた字面である。
「花乃咲」を訓めるだろうか。カノサである。屈辱的な名前ではないのか。ハインリッヒ四世。
「星礼」、訓めるだろうか。これで「セーラ」だ。やはり「軟弱者」ぱしん。「あなたそれでも男ですか」などと平手打ちをかますのだろうか。ああ、いかんいかん。マニアックな方向に走ってしまいそうだ。
「真羽」でマハ。オウム真理教ではないだろうな。「麻夢」でアム。将来、ネズミ講に走らぬように注意。
「亜美佳」でアミカ。そういうコンピュータもあった。
「束紗」でタバサ。母親は魔女かも知れぬ。
「道夢」でドウム、昔そういう車があった。車といえば「香利奈」「世利香」という女の子もいる。カリーナにセリカだ。
「瑠」の字は非常に使われることが多いのだが、「瑠梨羅」でルリラだ。これは発音しにくい。
「瑠樹」がいる。「ルージュ」である。困ったものである。
 片仮名の名前というものもあるが、中でも目をひくのが「メロディ」だ。ハーフではない。物凄い名前だ。メロディ。親父がトレイシー・ハイドのファンなのだろうか。あるいは地下室に降りれば「地下室のメロディ」だ。つまらぬ。すまん。
 音楽に関連する名前といえば「玲羅」もいる。後半のデュアン・オールマンのギターが素晴らしいあれである。
「利住」
「来生歩」
 それぞれ、リズムとライブである。待ちなさい。どういうことだ、それは。
「時生」でトキオだっているぞ。空を飛べ。
 そんなふうに眺めていると、仕事の時間などすぐに過ぎてしまう。いいのだろうか。
 さて、そんな中で私がいちばんとんでもないと感じたものがこれである。
「努来真」。
 ドラマだ。どうすればいいのだ。
 おいらは努来真。やくざな努来真。おいらが怒れば、ということでやはり嵐を呼ぶ男なのだろうか。恐ろしいことだ。くわばらくわばら。
 老人問題というものがあるが、将来いちばん重要なのはこれらの名前を持つ彼ら彼女らが老人になったときにどうすればいいのか、という問題なのではなかろうか。カレン婆ちゃんやら、トキオ爺ちゃんやら、そんなことでいいのか、この国は。
 誰か何とかしてください。 


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1998/04/05
文責:keith中村
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