第84回 怨霊戦隊ルサンチマン


 わたしがかつて上梓した「由良之介とは何か」といふ評論は、当初はちつとも評価されなかつたけれども数年経つてぽつりぽつりと話題になつてきたと言ふ経歴を持つてゐるのですが、最近では漸く日本史を御霊信仰の観点で見ることもそれほど異端には思はれなくなつてきたやうです。かういつた傾向になつてきた原因はエンターテインメントの功績が大きいやうに思ふ。ノースロップ・フライといふ学者が文学はやがて神話に回帰してゆくと言つたのですが、西洋のSFではこれを証明するかのやうにサーガと言はれる一連の伝奇ものが流行り出した。これを受けて我が国でも同じやうに伝奇SFがブームになつたわけですが、西洋の模倣だけにとどまらずだんだんと日本史に材を取るやうになつてきた。そのとき、彼らエンターテインメントの作家たちは作品に厚みを増すために柳田國男やら折口信夫やらの理論を実装したのですね。ご存知のやうにこの二人の研究家に共通する観点は御霊信仰なのですが、実際この史観を実装した作品といふのはたいてい素晴らしい出来になつてゐます。従来の解釈ではやや説明の苦しかつた古代や中世の事件や人間の行動が、御霊信仰の史観で描かれるとすんなり理解できるやうになる。それでやうやく御霊信仰というものの実像がゆらりと浮かび上がつてきたといふ経緯ですね。
 さて、何年か前に「怨霊戦隊ルサンチマン」といふ映画がありました。原作はこれが処女作となつた北野天満の同名小説。夏声書院から出版されてゐるこの原作も素晴らしいのですが、映画だつて負けず劣らずの傑作となつてゐます。
 ジャンルは子供向けのいはゆる特撮戦隊ものであり、設定も従来のパターンを踏襲してゐるのですが、かといつて見くびつちやいけない。
 まづカメラは日本各地でそれぞれに暮らしてゐる五人の主人公たちを捉へる。彼らは市井の人間なのですが、あるとき揃つて夢を見る。夢枕に大国主命が立つて言ふんですね。外敵の侵略によつてこの国が危機に瀕してゐる、汝たちに超越した能力を授けるのでそれによつてこの国を守つてほしい、と。それで5人の主人公が集結します。このあたりがちよつと八犬伝にも似てゐる。ちなみに大国主命には特別出演の丹波哲郎が扮してゐます。
 まずリーダー格なのが聖太志。会社で将来を嘱望されながら、社長の馬鹿息子によつて地位を乗つ取られたといふ経歴を持つてゐます。名前からお解りのやうに彼には聖徳太子が守護霊となつてゐます。必殺技はレインボービーム。玉虫厨子ですね。
 次が日系二世のストーク保元。守護霊は崇徳天皇です。必殺技はストーキングミサイル。これは発射するとどこまでも相手を追撃するミサイルです。彼は政治犯として投獄された経歴を持つが実はこれが冤罪です。
 それから、九州出身の西南吉之介。もちろん守護霊は西郷隆盛です。彼はカレーが大の好物といふ設定なのですが、これもお定まりですね。もと青年実業家だつた彼はバブルが弾けて、自社の株が大暴落、倒産という憂き目を見てゐます。得意技はサイゴーカード、これはまあ手裏剣のやうなもので大変な殺傷能力を持つてゐます。株が暴落しただけに、由来は西郷札ですね。
 紅一点が梅宮ミッチー。才女であり、菅原道真が守護霊です。彼女はもとキャリアウーマンで、不況を乗り切るために香港支社を閉鎖させることを提言してゐたのが、敵対派閥からの讒言によつて九州支社に左遷になつたといふ経歴の持ち主です。必殺技はスピロアタック。これは色仕掛けで男を閨房に導いておいて病気にさせてしまふというものですが、まあ何の病気かは書かなくともおわかりでせう。
 最後が平井天慶。彼は平将門を守護霊に持ちます。僧侶だつたのですが、総本山に対立したために無理矢理還俗させられてしまつたという経歴。得意技はメガトンヘッド。何とやなせたかしさんのアンパンマンのやうに首が胴からもげて飛び回り相手に噛み付くといふ大技です。
 どうです。子供向けの映画にしてはなかなかの設定ですよね。特に聖徳太子や西郷南洲を怨霊としてゐるのが鋭い。
 主人公たちは、いちやうに悲惨な経歴を持つてゐるので怨霊たる資格が充分にある。大国主命もそこを見込んで(?)守護霊を授けたのです。
 彼ら五人の戦士が戦ふのは日本を侵略しやうと目論む暗黒結社イテキーズ。黒魔術で地獄からフビライハンガーやらマッカーサタンやらといふ怪物を召喚しては送り込んできます。絶対の危機になると、戦士たちの体から魂が離脱してそれらが合体し、ルサンチ・マンといふ無敵超人になります。魂が遊離してゐる間主人公たちは仮死状態となつてゐます。で、代りにルサンチ・マンが活躍するのですが、このあたりが死と再生だとか、悪の王を放逐するとかいふカーニバル的要素になつてゐてなかなか興味深いものです。
 まあ私がここでいくら書いても百聞は一見に如かずといひますから、機会があれば是非観て頂きたい。
 私はこの映画を吉行淳之介と観たのですが、観終はつて彼に「どうだい。素晴らしかつたね」と言ふと彼が「うん。梅宮ミッチーのベッドシーンがね」と答へたことを懐かしく思ひだします。


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1998/03/19
文責:keith中村
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