第72回 ブーム


「いやあ、しかし何ですな」
「何ですか」
「最近の高校生はえらい素直になりましたな」
「ほう。そうでっか」
「そうですやん。僕らの若い時分は校則なんかにはむしろ反撥してたもんですが、最近の子は従順になってますな」
「たとえば」
「街へ出てみいな。女子高校生は校則に従容としてみいんな同じようにだぶだぶの靴下穿いてます」
「阿呆か、君は。あれは校則やないがな。むしろ学校によったら校則違反になるんちゃうか」
「えっ。そうなんか」
「当たり前やろ。あれは、お洒落でやってるんやがな」
「なんや。そうやったんか。しかしお洒落ちうもんは、他人との差別化でするもんやがな。あれだけ揃いに揃ってたら校則やと思うやないか」
「ほんまに君はもの知らずやな」
「そしたら、もしかして」
「何ですか」
「みいんな、頭が茶色いのも校則と」
「ちゃうちゃう」
「へえ。魂消た。そうやったんか。しかしですな」
「何ですか」
「なんで、そんなことするんやろ」
「そら、決まってるがな。目立つためやがな。個性や」
「そら、おかしい」
「なんで」
「みいんなおんなじ恰好してるやん。目立てへんがな。むしろ埋没してしまうんとちゃうか」
「なんでやねん。ああいう恰好してる大人がいてるか。あの世代だけやがな。だから目立つやろ。あの世代の自己主張や。ええことなんとちゃうか」
「ふむ。なるほどな。しかし、大人との対比で目立ってもやな、同世代では埋没するやんか。そこのところはどうなってるねん」
「そんなん、僕かて知らんがな」
「目立つんやったら、もっとあるやろ。人のせんような奇矯な振る舞いちうもんが」
「たとえば」
「背中に犬背負って歩くとか、頭に植木鉢乗せて歩くとか、丁髷に二本差しするとか、宮廷音楽家のかつら被るとか、蟹連れて散歩するとか、鼻に骨挿すとか」
「そんなん、恰好悪いやんか」
「恰好悪いものを恰好よく見せるのがヤングのパワーちゃうんか」
「ヤング、パワーて、君使う言葉がこてこてのおっさんやな」
「ほっといてくれ」
「流行ちうもんがあるんやがな。僕らの頃にもあったやろな」
「ありましたな」
「ベルボトムとか、ロンドンブーツとか、だっこちゃんとか、フラフープとか、ローラースルーゴーゴーとか、ルービックキューブとか、フライングVとか、コンバースとか、アイヴィーとか」
「なんや、いくつか古過ぎるのが混じってるような気いするけどな」
「ええねんええねん。とにかく、それと一緒やんか」
「ちうことは、どっかにブームの火付け役がおるんやな」
「そういうことやな。まあ、テレビなんかが大きいんでしょうね」
「テレビの具体的に誰やねん」
「僕もそんなに詳しくないんやけどな。アイドルなんかやろね」
「今、誰が流行ってるねん」
「キムタクなんかとちゃうかな」
「ええっ。そんなん今時あるんか」
「何が」
「都内どこでも一円という」
「ど阿呆。それは円タクじゃ。いくつや、君は」
「そしたらフュージョンの」
「シャカタクや」
「ねえ。あなた。そろそろ一戸建か分譲にでも引っ越さない」
「それは社宅や。だいぶ、遠くなってるで」
「いやいや。キムタクね。ほんまは知ってます」
「ほなら、いらんボケしいないな」
「あれやろ。スノッブの右の奴」
「スマップじゃ。なんでキムタクが象さんギター弾いてなあかんねん」
「そしたら、若い衆はキムタクの真似してるんか」
「真似、いうことないやろけど、影響力は強いやろね」
「へえ。そうなんかあ。そしたら子供なんかもいうんか。『なあ。お母ちゃん。ポケモン買うてえな。みいんな持ってるんやで。キムタクだって持ってるもん』『やかましいな、この子は。ほなあんたはキムタクが禿にしたら禿になるんか。キムタクが飛べいうたら飛ぶんか。キムタクが死ねいうたら死ぬんか』『ぎゃあ。わああん。そんなん言わんと買うてくれ。買うて買うて買うて。キムタクも持ってるんや。うええん』『そんな喧しい子はお母ちゃん知りまへんで。そんなに言うんやったらキムタクの家の子になり』ちうことか。そしたらあっという間にキムタクは何百人もの子持ちになるやんけ」
「どうして君はそう阿呆なことばっかり思い付くんや」
「いやあ。しかし。キムタクに言うて欲しいなあ」
「なんて」
「仕事の合間にほっとする瞬間、持ちたいですよね。好きです。切手蒐集」
「なんやそれ」
「こら、もう。どわあ、と阿呆な女が郵便局につめかけるで。そういうコマーシャルせんといかんな、郵政省も」
「阿呆は君や」
「後はやっぱり市場が狭くなってしまった貝割れ業界も、キムタク担ぎ出さないとあかんやろ」
「何て」
「ホワイトデーには貝割れ大根。僕の真心をあの人へ。愛があれば大腸菌なんて怖くない」
「怒られるで、君。O157に貝割れは関係なかったんやから。しかもなんでホワイトデーに貝割れ贈らないかんねん」
「万が一のために。僕は持ってます、油圧ポンプ」
「どういう時のためやねん」
「これで、油圧ポンプが馬鹿売れするねん」
「売れてたまるか」
「ほら。僕も古語辞典。いざというとき、やっぱ頼りになるよね」
「ならへんならへん」
「夜中、『かひなし』ってどういう意味やったかと気になって眠れへんことあるやん。そういうときの為や」
「僕は君とやってる甲斐がないわ」
「あなたの笑顔が見たいから。僕はニカワを絶やしません」
「ほう。それは、もしかして」
「はいはい」
「もしかして、俄ですか」
「いやいや。ニカワですわ」


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1998/02/19
文責:keith中村
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