第65回 髭剃り


 なんて復帰したかと思いきや、やはりサーバーの調子がおかしい。起動してしばらく経つとエラーになる。
 ははあ、これは熱暴走だな、と思い筐体を開けてみた。埃っぽい部屋であるため、これまでも何度もクーラーファンの目詰まりによるトラブルはあったのだ。カメラ用のブロアで埃を吹き飛ばせば直るだろうと見れば、CPUクーラーが斜めに外れている。なるほどこれが原因か、しかし何故外れたのだと調べてみると、このクーラーはプラスティックのマウンターで固定するタイプのものなのだが、そのマウンターがどろりと溶けてしまっており、それゆえクーラーが外れてしまっていたことが判った。おそらくファンの目詰まりで放熱がうまく行かぬ状態にて稼働を続けていたため、過剰な熱で溶解してしまったのだろう。CPUの表面にも焼け跡のようなものがついている。まずいなあと思いながらもとりあえずCPUクーラーを買ってきた。溶けてしまったものはやや小さめのクーラーだったのだが、新規に買ったのは、サンヨーと区別するためヤマヨウと呼ばれる山洋電気の定番品である。これはクーラー自身もなかなか大きく、CPUへの固定もソケットの鈎に金属製の歯を引っ掛けるものであるから、溶けることはないだろう。で、システムの再インストール。やれやれこれでやっとまたインターネットに接続できるようになった。
 気のせいかも知れぬが、以前より安定しているようだ。以前なら不安定になるのでできなかった、BIOSをオーバースペックぎりぎりまで調整しての稼働でも今のところ不都合はでていない。
 そんなわけで、またこうやって何日かぶりに接続しておるのだが、この数日でネットワーク依存症になっている自分をひしひしと実感した。普段ならテレホーダイ時間はずっと回線を開きっぱなしにしており、とはいってもずっとインターネット上におるわけでなく、文章を書いたりゲームをしたり文章を書いたりゲームをしたりというローカルな作業もしているのであるが、それでも常に接続しているという状態がなんとなく安心できるのであり、それは譬えていうなら、いま私は部屋の中で独りっきりでいるが私の周囲には厳然と人間が存在し社会が存在していて、いつでも他人と係わることができる。ところが同じように独りっきりでいるにしても、もしそこが孤島だの深い山の中だのであったれば、なんとも心細いことであろう。インターネットに接続していない状態というのはまさにそれと同じ心理にさせるのであった。
 いやはや情報の遮断というのはほんに不安を招くものであるなあと痛感する。ま、私がインターネットから受け取る情報は、どうでもいい知人からのどうでもいいメールであったり、Yahoo! Newsのどうでもいい芸能記事であったり、どの道どうでもいい末端肥大症的情報に過ぎないのであるが。
 それはさておき、近ごろ髭剃りに熱中しておる。髭剃りなのだ。かつて私は電気髭剃りを用いると口の周囲の皮膚が剃刀負けで赫く腫れ上がり、なんとも情けない顔になるという体質だったのだが、いつの間にやら電気髭剃りを使っても負けない体質になっておることが最近判明した。それで暇があると夜といわず昼といわず髭を剃っておる。なかなか病みつきになる。じょりじょりと音を立てて髭が剃れてゆくのがえも言えず気持ちいい。頬を指でなぞってみて少しでも剃り残しがあると皮膚をぴんと引っ張って刃をあてるのだが、通り一遍のかけ方で剃れていなかった髭がそうやって剃れてゆくのはなんとも快感である。まさに根こそぎである。
 そうやってしばらく電気髭剃りの中に溜め込んでおいた髭を、ティッシュペーパーの上にこんこんこんと落とす時がまた楽しい。うひゃあ、げえ、こんなに剃れているのだなあ、ほう、なんてあたかもゴキブリホイホイの中を覗き見るような充実感が味わえる。
 私が使用している髭剃りは日立のものであるが、こうなるとやはりあの有名なブラウン社のものに興味が行く。「おかしいなあ、今朝ブラウンで剃ってきたばっかりなんだけどなあ」のあのブラウンである。
 日立でこれだけ剃れるのだから、況やブラウンにおいてをや。ギター業界のマーティンに匹敵するプロ指向の髭剃りブラウンである。憧れるなあ。髭剃りのプロってなんだ。
 それにしても頻繁に髭を剃っていると、なんとなく髭の伸び方が烈しくなってきているように感じる。これまで生えていなかった部位からもにょっきりと髭が出現したりする。どういうことだ。思うに、需要拡大のため電気髭剃りのブレードには毛はえ薬が塗布してあるに違いない。きっとそうだ。髭のマッチポンプである。侮りがたし、髭剃り業界。
 とにかくそんなわけで、近ごろの私は間違いなく日本でいちばん髭を剃っている男であろうと自負している。するな、するな。


新着順一覧 − 日付順一覧 − 前を読む − 次を読む − トップページ


1998/02/09
文責:keith中村
webmaster@sorekika.com