第63回 ねじが一本


 ここのところ休日を無為に過ごすことが多い。昼過ぎにのそのそと起き出し、さあて何をしようかなあ、とぼんやり考えるうちなんとなくQUAKE2やらHEXEN2やらというゲームを起動してしまい、そうなったらもうとことんゲームにのめり込み気がつけばすっかり夜だという調子である。だいたいこのDOOM型の3Dゲームというのは何だ。ひたすら敵を撃ちまくるだけで、どのゲームもみんな同じじゃないか。どうなっておるのだ。とんでもない話だ。とっても楽しいんだぞ。まったくもう。
 今日は珍しく昼前に眼が醒めた。さあて何をしようかなあ、とぼんやり考えるうちなんとなくQUAKE2を起動してしまい、そうなったらもうとことんゲームにのめり込み、やがてひとつのエピソードをクリアしたところで我に返った。いかんいかん、俺は何をしておるんだ。進歩というものがない。もっと他にすることがあろうに。
 そう考えてから、狼狽してしまった。なんということだ。することなど何も思い付かないのだ。どういうことだ。
 いやいや。何かあるはずだ。そうだ。年末にマッキントッシュ改造用の部品を買ってきたではないか。512掛ける384ドットという狭い狭い画面を、640掛ける480ドットに拡張するのだ。マックを改造しよう。そうだそうだ。それがいい。
 そうだそうだそれがいい、と独り言を繰り返しながら、マッキントッシュカラークラシック2なる機械を部屋の中央に移動させ、半田半田ごてドライバー抵抗ジャンパ線ニッパー取りそろえ、いざ改造と裏蓋を開けた。参考書は「ドーピング・マック」という改造記事満載のムックである。まずはじっくり読まんと思い、ページをめくるに、何やら穏やかでない記述が散見せらるる。
「誤って破損したりひびが入ったりすると内爆をおこして大変危険です」「金属製の装飾品は、感電の危険を少しでも減らすために身につけないでください」「もしもの内爆に備えてゴーグルの着用をおすすめします」「通電直後に分解すると残留電荷による感電の危険が高くなるので注意してください」「この部分には数千ボルトの電荷が残留している可能性があるので電極には絶対に手などを触れないようにしてください」
 そんなに危険なものなのか。作業は片手でしろと書いてある。片手なら万が一感電しても体内を通過する電流が少なくてすむからだそうだ。本の終わりのほうには、出版社は改造にかかわる責任を一切負いません、と太字。負いませんったら負いません、ということだ。勝手にやってくれ。死んでも知らんよ。いいや、知らんもんね。ということだ。
 すこし躊躇した。暖房をきかせていて暑いから俺はほぼ下着に近い恰好をしている。もし、感電死したとして、この恰好で発見されるのはちょっとかなりである。とりあえず発見されても恥ずかしくない死体であるよう、洗いたての服に着替える。さて、遺書はどうしようかな、とエディターを起動して、慌ててすぐ終了した。馬鹿か俺は。何も自殺しようというのではないのだ。マックを改造するだけではないか。そうだ。改造するぞ。
 改造するぞ改造するぞと出鱈目な歌を歌いながら、恐る恐る分解してゆく。「ここに触ったら死んでも知らんよ」という部分を巧妙にかいくぐりながら片手で分解してゆく。これはQUAKE2以上のスリルである。死んでも、セーブしておいたところから再スタートなんて出来ぬのだ。
 改造はたった二箇所である。パターンを二つ切断し、抵抗を一本付け加える。あっさりと完了。
 ついでに電源ランプを時代の最先端たる例の青色LEDに付け替えようとしたが、なんということだ、でか過ぎるではないか。LEDがでか過ぎてとうてい付けられないのだ。これだから衝動買いはいかん。まあよい。今日はこれくらいで勘弁しといたろ、などとほざきながら筐体を組み立て直す。
 いよいよ、これからが問題である。俺の半田付けが不完全であれば、あるいはパターンカットが不完全であれば、「大変危険なことになる」と記事は言うのである。いったいどうなるのだろう。どかん、とか、ぼむ、とか、そういうあれか。
 恐る恐る電源を接続し、キーボードを接続し、そしてキーボード上の三角形のパワースイッチをオン。と同時に俺は脱兎の如くだっと部屋を飛び出した。廊下に出てばたん、と扉を閉める。万が一の爆発に備えてのことだ。
 四秒五秒。爆音は聞こえない。扉を開け戦々恐々と中を窺っていると、たまたま出てきた二部屋隣りの住人がじろじろ不審そうな眼を向ける。
 やはは、いや、なんでもないんっすよ、その、爆発したらね、困るかなあ、なんてね、って、あわわ、別に過激派とかそういうもんではないんですよ。違う。違うったら。と心の中で呟きながら、部屋に入る。
 おお。ちゃんと起動している。画面が出ているではないか。画面が広くなったゆえ表示がずれているが、とりあえず成功しているようだ。あとは、表示位置だけ調整すれば完成だ。というわけで、コア調整ドライバでいじくること数分、どこの巷か知らぬ巷で流行しているところの高解像度カラクラの改造に、俺も成功してしまったのである。
 そんなわけで、カラクラを元の場所に戻し、悦に入っていたのだが、ふと床を見ると何やらねじが一本落ちている。はて、これは何だ。……まあ、いいか。ちゃんと動いていることだし。
 でも、マージョ様一味はいっつもこれで、タイムボカンに負けたんだよなあ……。


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1998/02/02
文責:keith中村
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