第60回 縦椅子、鉋


 唐突ですがここでクイズ。タイプライターの二段目つまりQWERTYと並んでいる一列の文字だけでできるいちばん長い単語はなんでしょう。
 それにしてもこうやって文章を綴るのは、本当は「書く」ではなくキーボードを「打つ」という行為なのだが、それでもやはり「書く」という表現のほうがしっくりくる。このQWERTY方式というキーボードを叩き始めてかれこれ十八年になる。さすがにこれだけ触れているといわゆるタッチタイピングとかブラインドタッチと呼ばれる、刻印を見ずにキーを押すということもできるのだが、実のところ私がこれを習得したのはキーボードに触れて十年は経った頃である。恐るべきスローラーナーである。
 かつて、この二段目左からQWERTYと並んでいるキーボードは人間工学に基づいてもっとも速く打鍵できる排列になっていると聞いた。しかし、これまた有名な話ではあるが、実はこれ、嘘であったのだ。コンピュータのキーボードは、テレタイプのものを流用していた歴史があるのだが、機械式のタイプライターというのは梃子の原理でヘッドを紙面に叩きつける構造であり、速いスピードで打鍵するとこのヘッド同士がひっかかりあってしまう。そこで、「速く打てないように」考案されたのがこの排列であるというのだ。
 気になるのがQWERTY以前の排列とはどういうものであったのということである。DVORAK式というのが、そうなのだろうか。現行の排列でも無闇と速く打つ人がいるが、そういう人が「以前の叩きやすいキーボード」を使うとどうなのだろう。打鍵速度は、排列より馴れによるところが大きいから、結局あまり速くは叩けないのかもしれない。
 ところでマッキントッシュの昔のキーボードは奇妙である。とんでもないところにエスケープ・キーが付いているのだ。初めてみたときはエスケープがない、と慌てた。ひと月くらいして発見するまではマックにはエスケープがないのだ、と思い込んでいた。どう考えてもあのスペースバーの右隣りという場所は異常である。それより、未だに判らないのが、デリートしたくなったらどうすればいいかだ。バックスペースはあるのに。
 マッキントッシュといえば、ホームポジションの位置も妙である。普通は「F」と「J」が余計にへこんでいたり、突起があったりするわけだが、マックは中指の「D」と「K」に突起がある。あるマッキントッシュ専門紙で、「他の指より二倍割り当てが多い人差し指にホームポジションの確認という役割まで与えずに、それを中指に担当させているマックは偉い」などという提灯持ちの記事を見かけたが、そういうものではないだろう。「G」「H」の列まで動くからこそ、人差し指の位置にあるべきだろうに。しかしまあ、これも「馴れ」がいちばんの要因かもしれない。
「ぬふ」。なんて笑っていやがる。「あう。え。おや」訝しんでいる。「湯。世。わっ」驚く。「ほへ」なんだそれ。
「縦椅子」って何だよ。「鉋。韮。背」。
「千歳は訊く、魔の理」。おどろおどろしい。「れ?」なんて不思議がって。「けむ」。いきなり古語だ。
 三重県庁は「津」。「誘ひ込みも寝る」。旧仮名遣いで子女をたぶらかしてはいけない。「めろ」。めろめろなのか。
 かくも、謎めいているはJIS規格における仮名排列である。これは何かの暗号であるのだろうか。
 さて、キーボードといえば、コンピュータだけのものではなく鍵盤楽器にもついているが、ピアノを見ればとりあえず「猫踏んじゃった」を弾く奴がいる。生ギターがあれば「天国への階段」、エレキギターなら「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を弾く奴がいる。こういう馬鹿の一つ覚えなる不逞の輩は銃殺可としてはどうか。楽器屋なら即刻出入り禁止にすべきだ。
 同様に日本語IMEと見れば「貴社の記者が汽車で帰社した」「李も桃も桃の内」と変換させる奴がいる。すべてのIMEに告ぐ。こういう文章を見たら即刻アプリケーション・エラーを出してハングしても構わない。マックなら爆弾を出したまえ。よろしいか。よろしいな。
 さて、冒頭の解答である。それは「typewriter」であります。


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1998/01/29
文責:keith中村
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