第362回 どうなんだデアゴスティーニ


 このところずっと不思議に思っていたことがあって、恐らく同じ疑問を持っている人も多かろうけれど、それはディアゴスティーニというのはぜんたい何なのかということだ。ディアゴスティーニとはもちろん、例のいろんな雑誌を創刊しまくっている出版社のことだが、私の疑問というのは一体あれはどういう素性の会社で、またどうしてあのように雑多と言っても差し支えないほど多岐にわたる雑誌を創刊しているのか、そしてあれら「週刊」と銘打っている雑誌はすべてきちんと刊行され続けているのか、そもそもディアゴスティーニという言葉はどういう意味か、などの点なのであった。
 ディアゴスティーニは混沌である。テレビの宣伝でやっていて私が覚えているだけでも、世界の航空機を扱ったやつ、クラシック音楽のやつ、日本の歴史、人形の家、宝石と鉱石、恐竜、最近のものでは、源氏物語、スターウォーズ、とりわけ印象に残っているのはかなり前の創刊だがチャールズ・マンソンやらの何やらの猟奇殺人を特集するやつなんかがあった。
 この共通項のなさは一体何なのだ。
「源氏物語・宝石・猟奇殺人」
 それは三題噺か。それはなぞなぞか。
 いろいろ考えるうち、この無秩序さを説明する仮説をひとつ思いついた。こうだ。
「ディアゴスティーニは、ものすごいマニアを雇用している」
 就職の面接なんかはきっとこういう具合なのだ。
「はい、次の方」
「よろしくお願いします」
「で、あなたは何が得意ですか」
「源氏物語を全部暗誦できます」
「ふむ。やってみてください」
「桐壺。いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。はじめより我はと思ひ上がりたまへる御方がた、めざましきものにおとしめ嫉みたまふ。同じほど、それより」
「よし。採用決定。君、『週刊源氏物語』というのをやってください」
「はい。頑張ります」
「では次の方」
「きひひひひ」
「何か妙な人がきましたよ。あなたは何ができますか」
「り、り、り、猟奇殺人が大好きだ。きっきっきっ」
「危ない人ですねえ。とりあえず語ってみてください」
「チャールズ・マンソン、シンシナティ出身、一九六九年にシャロン・テイト殺害。オハイオ州出身ジェフリー・ダーマー、十七人を殺害、カンニバリズムとネクロフィリアの傾向あり。酒鬼薔薇聖斗、神戸市須磨区、本名あず」
「あ。あ。それくらいで結構。わかりました。採用しましょう」
 勝手に想像しているのも何だから調べてみることにしたが、便利な時代になったもので、ディアゴスティーニ社のサイトというのが一発で見つかった。ここで、かなり多くのことが判った。
 まず、ディアゴスティーニは人名なのだそうだ。地理学者のジョバンニ・デアゴスティーニという人が世界地図の普及を目指して一九百一年ローマに地理学研究所を設立したのがこの会社の起源であるらしい。現在では世界三十六の拠点があり、日本法人は一九八八年設立、「デアゴスティーニ・ジャパン」というのが正式名称。テレビの宣伝では「ディ」と発音しているが、表記は「デ」なのでる。
 デアゴスティーニ・ジャパンがこれまでに創刊した雑誌は合計三十五種類。驚くべきことにほとんどの雑誌は百号前後で完結ということになっており、週刊なら二年、隔週刊なら四年ほどもかけてちゃんと出版されつづけていたのであった。創刊号以外は書店でほとんど目にしなかったので、鳴り物入りで出た割には二、三号でつぶれるカストリ雑誌なんじゃなかろうか、と勝手に失礼な想像をしていたのだが、そんなことはなかったのだ。
 さらには、このような出版形態は、百科事典的にひとつの主題を掘り下げつつも手軽に購入できるように分冊にするという目的らしく、これを「パートワーク」というのだということも判った。どうやら購買の主体は定期購読のようで、書店で見かけにくいのもこれが理由なのであった。
 せっかくなので、他の国のサイトも回ってみた。
 まず、総本山のイタリア。もちろんイタリア語など判らぬのでざっと眺めただけなのだが、ここの商品一覧を見る限り、パートワークの出版物は見当たらず、むしろ一冊完結で航空機やらカクテルやらの本を発行している。日本で言うムックのようなものか。
 イギリスは、デアゴスティーニ世界ネットワークの本社なのだという。ここではパートワーク形式の雑誌紹介がいくつかされている。勝手に訳して紹介すると「週刊私の動物王国」「週刊世界を知ろう」「週刊古代エジプトの栄光」「週刊アート・コース」「週刊PCの達人」、それに日本でも現在刊行中の「「週刊スターウォーズ・ファクト・ファイル」。完結してしまったシリーズは掲載していないのか、この六種類のみが紹介してある。
 オランダにもある。「Dinosaurussen」「ComputerWijzer」「Klassieke Muziek Collectie」。オランダ語は判らぬが、日本の「週刊ダイナソー」「週刊PCサクセス」「週刊ザ・グレート・コンポーザー」と同種のものだろうことは容易に想像がつく。
 その他、フランスやベルギーのサイトもあった。紹介されているのは、やっぱりスターウォーズや人形の家や航空機だったりするのだが、ベルギーには「Bellissima」という口紅の写真が表紙になっているものがあった。Bellissimaは「美少女」という意味らしいので、これと表紙から推測するに化粧品を扱っているらしいのだが、このシリーズは日本ではやっていない。百号集めるというマニア的資質は化粧品に興味を持つ若い女子の人にもっとも欠けたものなので、売れそうにないので見送っているのだろうか。
 スペインのサイトにPokeMon、DigiMonなどという題名の雑誌が紹介されているのを見つけた。世界的に有名なのだな。
 さらに探していると、これは総本山イタリアであるが、別サーバーで「ドラゴンボール」を専門に扱っているのを発見した。鳥山明の「ドラゴンボール」である。言葉が判らぬので写真なんかで判断するしかないのだが、どうやら雑誌ではなく、チェスやら人形やらのキャラクターアイテムを販売している模様。Manga、Goku、Shonen Jump、Fuji TVなどの単語が見える中に、"otaku"と引用符付きで書いてある文章がある。興味を惹かれるが、意味が判らないのが悔しい。"Glossario Manga"というこれは間違いなく用語解説だと思われるページがあって、ここにはANIPARO、BISHOJO、DOJINSHIなどの言葉が説明してある。かなりコアな用語である。ああ、どんな説明がしてあるのだろう、とても知りたい。
 再び日本法人のサイトに戻ってみる。発売中のシリーズにはそれぞれにやや詳しい紹介コーナーがもうけてある。いちばん新しいのは、現在テレビでも盛んに宣伝している「週刊そーなんだ!」という甚だ抽象的な題材を扱ったやつだが、これにも当然紹介コーナーがある。
 コーナートップには、「ガリレオ博士」なる人を中心にこの雑誌の主要なキャラクタが並んでおり、そこに吹き出しがついている。
「キミの ?どうして に !そーなんだ をあげよう」
 ビクトル・ユーゴーと出版社のやりとりを彷彿させる。
「そーなんだ!クイズ」というコーナーがあったので、クイズ好きの私はわくわくしながら見てみた。
「勉強中につきしばらくお待ち下さい!」
 残念なことにいわゆる「工事中」なのであったが、どうだ、この謙虚さは。ガリレオ博士でも勉強しているのだ。博士、しっかりね。
「みんなのそうなんだ!」というのはいわゆるところの掲示板であり、ここでは子供達が疑問をぶつけ、判る人が自主的にそれに答えている。ちょっと読んでみた。

質問「どうして掃除機がゴミを吸い込むの」
回答「中にモーターみたいのが入ってて、それが電気で動いて、ゴミを吸い取る」

質問「金属は何でできてるのですか」
回答「分子で出来ているんじゃないかな」

質問「サッカーのリフティングを上手にやるにはどうしたらいいですか」
回答「練習あるのみ」

質問「どうして月は遠いのですか」
回答「宇宙にあるから」

質問「地球は回っているのに、なぜ私たちは回らないの」
回答「だって自分達も回っていたら大変でしょ」

質問「私は走るのが遅いのですが、人によって能力に差があるのはなぜですか」
回答「それは、個性というものです」

 ……どうなんだ。


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2002/03/18
文責:keith中村
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