第355回 はらさんに五千点


「官民一体となって」という言い回しの「官民」は「政府と民衆」の意で捉えられることがあったりするわけだが、これは間違いであって本来は「官吏と民間人」。官吏とはすなわち官僚・国家公務員である。では民間人とはぜんたい誰かというと、日本のような間接代表制民主主義国家においてはわれわれ一般民衆を示すにやあらず、民間人によって民間人から選出された民間人の代表たる政治家のことである。
 私は民主主義というものにそれほど信頼をおいてはいない。なんとなれば、省庁の最高責任者たる国務大臣が民であるからだ。官吏というのは行政のプロフェショナルであり、民としての政治家は行政に関するアマチュアである。言ってみれば、素人が専門家集団を指揮しているわけである。これは見方によってはずいぶん異常な話で、譬えるならシステム開発の場で、有能なプログラマ集団をわけのわからん初心者がシステムエンジニアとして統轄しているようなものである。あるいは、そこいらの主婦が一企業の社長になるようなものだ。
「台所からこの会社を変えてゆきます。よろしくお願いします」
 もちろん、素人が責任者になるのがすべていかんということでもなくて、最終的には当人の意識の問題が大きく関与することになる。自らの立場や責任を充分に意識した上で、相応の知識や理論あるいは実務経験を持てば、素人は限りなく専門家に近づけるかもしれない。だが代表制政治に限っていえば、そもそも無能な素人を選出した責任は選んだ側にもあるわけで、高い意識を持つという命題は、そういう愚を犯さぬためにわれわれ一人ひとりにも等しく課せられるものとなる。
 退屈な話を長々と書いてしまったが、私が言いたいのはわれわれもしっかりしなくちゃならんが、代議士の皆さん方にもしっかりして貰いたいということである。
 というのも、ある代議士に関してちょっと気になっているのだ。昨年、最年少の二十五歳で当選した原よう子という女子の人である。この人はいわゆるウェブ日記なるものを発表しているのだが、ここがものすごいことになっている。
 まあウェブ日記などというものは昨今珍しいものでもないが、注目すべきはこの日記が「原よう子」名義となっている点である。この女子の人の本名は「原陽子」と表記するので、選挙で用いた「原よう子」名義のこのサイトは公人としてのものであると考えられる。
 で、何がすごいと言って、この人の文章だ。この女子の人の文章はずいぶんなことになっているのである。
 ちょっと引用してみよう。

 この臨時国会だって、何のため?!?!って感じ。5分そこらの本会議と委員会のためになんん(ママ)て意味ないじゃん!!4日間あれば、代表質問くらい出来るでしょ!!靖国参拝の事とか経済の事とか課題はいっぱいあるはずなのに・・・って、議運で言ったら、自民党は「そんなことは選挙期間中に街頭で訴えた、TVでも訴えた。」だって・・・それじゃ〜国会なんていらないじゃん!!と思いません??へ〜んなの!! L(・o・)」

「それじゃ〜国会なんていらないじゃん!!」
「へ〜んなの!! L(・o・)」」
 公人たる代議士としての発言が「いらないじゃん!!」「へ〜んなの!!」であるのだ。初めて読んだときにはのけぞったぞ。ものすごいことだと思う。顔文字らしきものまでついている。
 表記についても気になることだらけである。まあ表記についてはさまざまな考え方もあるだろうが、まず「TVでも訴えた。」と、閉じ鍵括弧の前に句点があるのが私にはとても気になる。原さんの大学時代の専攻は教育だったらしいので、これは学校で教わる表記をそのまま踏襲しているのかもしれないが、それなら学校で教わらない「・・・」はなんだろう。三点リーダーを知らないのか、もしくはその入力方法を知らないのだろうか。感嘆符疑問符のあとのアキがないのもTVという略記も波線を長音記号に使うのも学校では避けるべきこととして教わるんじゃなかったろうか。

 なんだか日に焼けてしまいました。もう26・・・お肌の曲がり角はとっくに過ぎているのに。気を付けなきゃと思いつつ・・・自然の成り行きに任せっぱなし・・・ついにシミ第一号が出来てしまいました。ちょ〜ショック・・・少しはお肌を大切にしなくてはですね。
 今日は国会議員水泳大会!!のはずが・・・大雨で中止となってしまいました。はりきってジャージ着て行ったのに・・・残念。

 繰り返しになるが、これは二十六歳の市井の女子の人「原陽子」のサイトではない。代議士「原よう子」のサイトなのである。
 断っておきたいのは、私には「原陽子」という私人を貶めるつもりは毛頭ないということだ。「原陽子」という私人がどこで何をしようとそんなことはどうでもよい。ただ、公人たる「原よう子」を考えるときにこれはちょっとものすごいのではないかといいたいのだ。
 この人の文章が特別というのではなくて、今どきの二十六歳の言語活動というのは、だいたいこんなものなのだろうか。いや、そうだとしても国民の代表の書いたものとしてはちょっとものすごいことだ。
 ちなみに手元にある「きけわだつみのこえ」には二十二歳の戦没者の次のような文章がある。

 平生の修養浅薄にして大事に臨み、いまだ心平かならず。真に恥ずべきの至り。唯云ふ可きを言はず思ひし事を語らざるは稍淋しき感有りと雖もさしたる事なし。そは我内の思ひのみ。心に鬱積するは母心弱くして我身を思ひ心を痛む其の事のみ。今の我心は遠く万里に演習し而も再び還らざる構なり。願はくば父母共に我れを案ずる勿れ。

 この二十二歳というのは算え歳だろうから実際にはもう少し若かったろうに、この違いはどういうことだろう。僅か六十年で言語能力というのはここまで違ってくるものなのだろうか。
 そもそもこのような文章を書いていて、この人が所属する政党はなんとも言ってこないのだろうか。リベラルな人権主義の政党のようなので、検閲のような行為は控えているのかもしれないが、せめて長音記号を「〜」にするのはやめろくらいは言っておかないと、視覚障碍者が読み上げブラウザに読み上げさせるときに困るんじゃないかな。平等主義を標榜するならそれくらいの想像力と配慮は必要ではなかろうか。政党本部のトップページにはでかでかと「バリアフリー」の文言があり、ちゃんとW3Cのアクセシビリティガイドラインに準拠していることが謳ってあるのに(と思って念のため政党本部ページのソースを見たのだが、テーブルにサマリーがなかったり、見栄えのためにテーブルを多用していたり、ちっとも準拠してないじゃないか。チェッカーにかけるとぼろぼろ警告出るし。バリアフリーはイメージアップのための方便か。よくWAIのバナー自慢げに貼れたものだ……)。
 さて、原さんのページには九月十二日に次のような文章が掲載された。

 昨日から2日間、お泊まりで勉強会に行って来ました。一日目のスケジュールが終わって、みんなで夕飯を食べ終わった頃に、テロのニュースが飛び込んできました。信じられない光景がTVに映っていました。鳥肌が立ちっぱなしです。
 テロと言う行為は許せないけれど、これを機に「有事」に備えた法整備がどんどん進んで行くのは確実・・・と思うと、恐ろしいです。だって、今回のテロだってアメリカの外交政策の失敗??なのでは・・・? 日本も同じ失敗を繰り返さないためにも、自ら軍縮を進め、真の平和・友好を世界各国と結んで行くべきだと思います。
 だって「ざまーみろっ」って思っている国だってきっとある、と思いませんか?それってとっても悲しいことだと原は思います。日本が危険な道に進まないよう、阻止して行かなくてはなりません!!

 アメリカでの同時多発テロに関しての発言である。
「今回のテロだってアメリカの外交政策の失敗??なのでは・・・?」
 というのもどうかと思うが、
「日本も同じ失敗を繰り返さないためにも、自ら軍縮を進め、真の平和・友好を世界各国と結んで行くべきだと思います」
 というのもこれはこれでいいのだろうか。
 軍縮を進めたらテロがなくなるのだそうだが、この人の思考回路はどういう仕組みになっているのだろうか。
 これは次のように書いているのと同じじゃないのだろうか。
「お隣のおうちに強盗が入り、台所にあった包丁を使って人が殺されました。これはお隣のおうちの近所づきあいの失敗? なのでは……? 我が家も同じ失敗を繰り返さないためにも、自ら包丁や鋏を捨てて真の平和・友好を向こう三軒両隣と結んで行くべきだと思います」
 さすがにこの文章は物議をかもしたようで、翌十三日には「お詫び」と題する文章が掲載された。しかしこの文章、「・・・」も「!!」も顔文字も一切なく、どうみてもそれまでの原さんの文体とは違うのであった。想像で書くのは無責任だが、この謝罪文だけ党の方で手配した代筆か何かではないだろうか。
 ところで、原さんのサイトには次のような文章もある。国会の委員会についての記述である。

委員会の時間が長すぎる。飽きちゃうよ〜。(>へ<) 毎回ではないけれど、8時間、9時間の時もある。

 あのね、よう子ちゃん。日本国の大人はね、みんな「少なくとも」8時間、9時間くらいは会社で仕事してるんでちゅよー。

私だって後ろにアドバイザーがいたらどんなに助かるだろうって思うけれど、一人で頑張っているのに〜〜〜、大臣の後ろにいっぱい人がいて、耳打ちしているのはずるい!

 国務大臣と自分を平等視する感覚もものすごいが、しかし原さんのサイトを見ていると感じる。たしかに、原さんにもアドバイザーは必要だ。土井さん、なんとかしてやってくれ。


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2001/09/15
文責:keith中村
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