第354回 右スティックをぐるぐる回せ


 私はビデオゲームというのが取りたてて好きというわけではなく、以前にも書いたが特にロールプレイングゲームなどというちまちまパラメータを上げてゆくようなものは唾棄すべきものと考えていて、だいたいにおいて現代人は社会生活を営む上で否応なく現実のパラメータをちまちま上げる行為を強いられているのだから何を好きこのんでゲームの中まで同じことをやらねばならぬのかと思うのだが、「ファイナル・ファンタジー10」の宣伝を見るとさすがにそのグラフィックの精緻さに「これは買わねばならぬのではないか」という気にさせられた。
 そんなわけで「ファイナル・ファンタジー10」を買ったのであるが、思えばロールプレイングゲームなどというものは大昔に「ドラゴンクエスト」を、数年前に「ディアブロ」をやったきりであった。だいたい「ファイナル・ファンタジー10」(くだくだしいので以降「ふふ」とする)はゲームがしたいというのではなく、あのグラフィックを見たいというだけの動機で購入したので、モンスターと戦ってちまちまパラメータを上げる行為などちっとも望んではいなくて、誰かが代行してやってくれればいいのだが、そんなわけにもいかず自らコントローラを握り締めてちまちまパラメータを上げる行為に勤しんだのだが、これがはまってしまった。どれくらいはまったかというと、このお盆休みの間に二回も最初から解いてしまうくらいで、二回目などは最後の大ボスというやつを僅か三回の攻撃でやっつけられるくらいにパラメータをちまちまちまちま上げまくったのであった。
 ところで、このゲームでモンスターと戦う場面、いわゆるバトルではある条件になると「オーバードライブ」といって必殺技を使えるようになる。キャラクタによって必殺技はまちまちで、剣で敵を滅多斬りにしたり魔法を連続して浴びせたりできるのだが、これは単に「オーバードライブ」というのを選ぶだけでは駄目なのである。
 たとえば主人公にあたるキャラクタの必殺技を使うためには、次のような操作が必要となる。
「画面上を高速で左から右に走る光が、ちょうど中央にきた時にボタンを押す」
 あるいは、戦いの主力になるミッキー・ローク似のキャラクタの必殺技を使うためにはこうだ。
「コントローラの複数のボタンを、画面上で指示された順番どおり間違えずに押してゆく」
 とりわけどうかと思うのが、口もとに黒子のあるお色気女性キャラクタであるところのルールーなる魔法使いの必殺技、これを選ぶと画面に次のように表示されることだ。
「右スティックをぐるぐる回せ」
 右スティックとはコントローラに二つあるジョイスティックのうちの右のほうを示す。
 規定の時間内にまわした回数だけ敵に連続して魔法攻撃ができるのである。だから、そりゃもうぐるぐる回さねばならぬのであるが、それにしても「ぐるぐる回せ」とはちょとどうかと思う。
 というのも実際にやってみて、私はひとつの発見をしたのである。
「ジョイスティックをぐるぐる回している人はなんだか馬鹿に見える」
 これは私の勝手な思い込みではない。その証拠にぐるぐる回している私の後姿を見た家の者が言ったのだ。
「あなた。なんだか馬鹿に見えるからおやめください」
 プレイステーション2のコントローラは任天堂の初代ファミコンから比べると随分複雑になった。数えてみるとボタンが十五個にジョイスティックが二つもあるのだ。多くの単純なゲームでは上下左右の方向ボタンと決定やミサイル発射用のボタンひとつだけで充分だろうに、十五個もあるのだ。まあ、あるのはいいだろう。冗長性とでもいうのか、複雑な操作を要求されるゲームが発表されたときのためのゆとりを持った設計とも言える。だが私は思うのだが、ゲーム作者たちはコントローラ上のあらゆるボタンや何かを必要でなくともできるだけ多く利用しなければならないとでも考えているのではなかろうか。
「ルールーの必殺技、どういう操作にしましょう」
「ボタンを連打するというのはどうだ」
「それ、やばいっすよ。腱鞘炎になったなんてクレームがくるかもしれないし」
「そうだよなあ。ええと、まだ使っていないボタンあったっけ」
「右のジョイスティックは何の操作にも充ててません」
「それだ。右スティックをぐるぐる回そう」
「いいですね。ぐるぐる回すんですね」
「そう。ぐるぐる回すんだ」
 私はこのときゲーム作者たちにその場で実際に右スティックをぐるぐる回してほしかった。そうしたら彼らもその行為が「なんだか馬鹿に見える」ことに気づいて取りやめたかもしれなかったからだ。
 ここまで書いてまた発見したのだが、ゲームの操作については次のことが言えるのではないだろうか。
「特殊な入力デバイスによる操作ほど馬鹿に見える」
 たとえば世の中には曲に合わせて踊ったりギターを弾いたりするゲームがあるが、あれなんか傍で見ているとぴょんぴょん飛び跳ねたりギターのネックをすい、と立てたり随分馬鹿に見えてしまう。
 また、実物は見たことがないのだがマイクに向かって叫ぶことで進めてゆく麻雀ゲームもあるのだそうだ。
「ポン」
「チー」
 叫ばないと鳴かせてくれないらしい。これなんかもかなり恥ずかしいと思う。
 そういえばこれも実物は知らないのだが、聞くところによるとファミコンの「バンゲリングベイ」という射撃ゲームでは二つ目のコントローラについているマイクに向かって叫ぶと援軍がやってきてくれたという。次のように叫ばなければならなかったのだそうだ。
「ハドソンっ」
 まあファミコンの音声認識など適当なものだろうから、きっと「ハゼどんっ」でも「畑さんっ」でも大丈夫だったのだろうが、さぞ間抜けな光景だったに違いない。
 これから先、ビデオゲーム機にはさまざまなデバイスが装備されてゆくことだろう。小型ビデオカメラなんかはそう遠くはない将来きっと標準添付になるはずだし、動画認識もかなりの水準に達するはずだ。そうなると、またちょっとどうかと思う操作が出てくるに違いない。
 たとえば必殺技をかけようとすると画面に指示が出るのだ。
「カメラの前でぐるぐる回れ」
 そんなのは厭だ。そんなところは家の者には絶対見られたくない。家の猫にも見られたくない。
 あるいは、こういうこともありえる。
「カメラの前でとんぼを切れ」
 ジャニーズでもなければ必殺技はかけられないのであった。たとえジャニーズでもヤッくんは無理。
「カメラの前でラジオ体操第二を演れ」
 覚えてないってば。
「カメラの前でカレー十杯を早喰いしろ」
 得意だったりするかもしれない。
「カメラの前で鼻を押し上げて面白い顔を作れ」
 これなんか、面白い顔を作る前に「Good!」などと表示されて必殺技が成功してしまったらどうしたらよいのだ。一生立ち直れないぞ。
 そんなわけでゲーム作者の方々にはくれぐれもあまり斬新なことを発想しないようにお願いしたいのであった。


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2001/08/16
文責:keith中村
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