第34回 らくらく


 新聞を二日も続けて読むなどということは、私にとっては大変希有なことである。今日も読んでしまった。天変地異でもおこるのではないかと危ぶまれる。
 読んでみるものである。またまた出おった。キティちゃんだ。人がキティちゃんシャープペンシルを持って立ち尽くしている間に、ダイハツはやってくれた。キティちゃんつき自動車の開発だ。シャープペンシルなどという生易しいものではない。自動車だ。ミラという自動車があり、そっちに疎い私でも名前くらいは知っているのだが、その特別仕様車がなんとキティちゃんつきなのである。新聞によると、「エンブレムやタイヤのホイールキャップ、運転席のメーター、シートの表革など」にキティちゃんのキャラクターやロゴを取り入れた模様。どういうことだ。マニア垂涎の必買アイテムか。ホイールキャップにまでキティちゃんとは。そんなことをすると眼が回ってキティちゃんが可哀想ではないか。
 メーター部分の写真が載っているのだが、水温計、スピードメーター、燃料メーターに各々二人のキティちゃんがいる。小さくてよく見えないのだが、もしかしたら水温計の「H」側のキティちゃんは汗をかいていて、「C」側は寒そうにしているのかも知れぬ。燃料メーターの「F」側はにこにこ笑い顔で、「E」側は泣き顔かも知れぬ。もしかしたらスピードを出しすぎると「きんこんきんこん」という警鐘の代わりに「はあい。わたしキティちゃん。あーんまりスピード出しちゃ、いやいや」などと喋りやがるのか。記事には「ミラの高級タイプ」とある。なんとまあ高級タイプである。キティちゃんだのに。
 しかし、そんなことに驚いている場合ではなかった。同じ欄には「腕時計型PHS」の記事もある。ああ、とうとう腕時計が電話になってしまった。子供のころ憧れていたスパイものや特撮ものの必須アイテム、腕時計型電話が本当にできあがってしまったのだ。記事によると商品化にはあと二年ほどかかるという。しかし、なぜか長野冬季五輪組織委員会には四十台提供するらしい。誰か、長野冬季五輪組織委員会会員になる方法は知らぬか。私に是非教えて欲しい。長野冬季五輪組織委員会会員を夜道で襲う方法も可。
 写真を見るとこの電話、ダイヤルというかボタンがない。ふふふ、実はこの電話、声で番号を言うとダイヤルできてしまうのだ。をを。恰好いい。凄すぎる。てことは、ゆくゆくは登録さえしておけば、「田中さん」と叫んで田中さんに掛けるという芸当もできるようになるはずだ。いやいや。「ロボ。応答せよ」と言って田中さんに掛けることだってできるではないか。
 だが、こんな電話が普及すれば現在の携帯電話とは逆に、手の甲を耳に近づけるという話し方になってしまうのではないか。長時間話していると手が攣りそうである。あるいは、この電話が普及した暁にはすべての人々は女子の人のように文字盤を掌がわにして装着するようになるのだろうか。
 なによりも、現在携帯電話を「ケータイ」と言っている人々よ。この電話を「ウデ」と呼びなさい。よろしいか。それがキティちゃんからのお願いです。
 だが、この「情報ファイル」という欄の白眉はキティちゃん搭載型自動車でも腕時計型電話でもない。何をかくそう、「らくらく跳んだ君」なのだ。
 どうだ。「らくらく跳んだ君」。この名前だけで、いったい何をするものかはわかるまい。わかるまいったら、わかるまい。
「長さ80cm、幅21cm、厚さ1cmのスチール製の足置き台を、跳び箱の2段目と3段目の間にはさみ、付属のベルトで固定する。児童は、跳び箱の両側から出ている部分に乗って立ち、前方に手を着いて跳び箱を越す。この練習を繰り返すことで、前のめりになって落ちることへの恐怖心を克服する、という仕組み」
 という仕組み、だそうだ。
 凡人には解らぬこの企業努力。きっと素晴らしい発明なのだろう。跳び箱が跳べぬ児童たちへの福音である。
「次、山田。何い。山田、跳べないのか。え、怖い。よおし、じゃ体育委員。らくらく跳んだ君を持ってきなさい」
「はあい」
「よし。山田。跳べ」
 たったったったっ。ぴょん。
「せ、先生。跳べましたっ」
「おお。山田、跳べるじゃないか。よかったなあ」
「山田君すごい」
「山田君かっこいい」
「よかったね、山田君」
 クラスのみんなの拍手の中、感涙にむせぶ山田。
「せ、先生。ぐすぐす。み、みいんな。ぐすぐす。らくらく跳んだ君のおかげですう。ぐすぐす」
 そういうことなのだろうか。
「らくらく跳んだ君」。写真で見る限り、ただの板なんだけどな。


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1997/12/05
文責:keith中村
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