第315回 ハイウェイ・スター


「今どの辺なん」
「ええと、もうすぐ吹田ジャンクションやな」
「そこで分岐してるんやね」
「そうそう。そこで名神高速に乗らなあかんねん」
「しっかりナビしてね」
「おっけおっけ。任せとけて。吹田にすいたら言うから」
「何」
「いや、だから吹田にすいたら言うから、て。がははは」
「何がおもろいいうねん」
「わ。わ。そういう恐い眼で睨むな。あ。わ。わ。前。前向け」
「ふん」
「お前なあ、時速百二十キロでよそ見してたらあかんで」
「よそ見させるようなこと言うたんは誰やのよ」
「いや。その。は。ははは」
「あんた。今から駄洒落禁止な」
「えっ。何やて。そんなこと言うのは誰じゃ」
「……」
「わ。わ。判った。判ったから前向け。前向けいうとるねん」
「次言うたら路肩に抛りだして行くからね」
「わかった。かしこまりました」
「運転してるわたしの身にもなってよね、ほんま」
「はい。感謝してます」
「ほら。そこ吹田何とかいうて書いてあるけど、あれと違うの」
「ええと。ちょっと待って。地図で確認する」
「ええのん。過ぎてしまうよ」
「ええと、ええと」
「過ぎたよ」
「ええと。あ、おっけい。まだ先みたいや」
「ほんまかな」
「ほんまほんま。大船に乗ったつもりで任せときなさい。地図のことならお任せ」
「なんや心配やなあ」
「大丈夫やって。現代の伊能忠敬と呼んでくれ」
「何やそれ」
「わはは。まあせっかく二人きりなんやから楽しく行こう」
「気楽なんやから。……観覧車見えるね」
「うん。……ええと」
「あの変なのは何やろ。あ、あれが太陽の塔か」
「……うん。ええと。げ」
「げ、て何よ。あんた、何で必死に地図見てるのん」
「……あのな、おまえ太陽の塔についてどんなこと知ってる」
「どんな、て。岡本太郎さんが作りはったんやろ」
「うん。他には」
「知らんわよ。わたし、万博の頃まだ生まれてなかったんやもん」
「いや、そうやなくてな。知らんようやからおっちゃんが教えてあげよう」
「何よ」
「太陽の塔はやな、中国自動車道の脇にあるねん」
「ふむ。そんで、何よ」
「ゆえに、やな。名神からは見えへんねん」
「何よ」
「つまりやな。その。平たく言うと、……さっきの奴がやっぱり吹田ジャンクションやったみたいやねん」
「何っ」
「ひ、ひい。あ、こら。前向け」
「命令するんか」
「いえ。その。前向いてください。前方を御覧になってください」
「わたしたち、乗り換えそこなったんやね」
「その模様」
「あんたのせいでしょ。ちゃんとナビして言うたやん。どういうことよ、一体」
「やかましいなあ。だいたいお前ナビて何やねん。それも言うならナヴィやろ。ほれ、こう下唇を噛んで。ナヴィ。ナヴィ。ほら、トゥゲザー」
「この口か。こら。この口か」
「いたい痛い。あ。あ。あ。こら手を離すな。ハンドル。ハンドル」
「まったくもう。地図ひとつろくによう見られへん人間の癖に。何が伊能忠敬やの。このへぼナビ」
「何やと。人を馬鹿にしたらあかんで」
「せやかて道、間違えたやん」
「いや。あのな、お前。一口に地図いうても、いっぱい種類あるんや。メルカトル図法、モルワイデ図法に、正距離方位図法それからグード法。それらを十把ひとからげに地図などと呼んではいかんのよ」
「間違えたやん」
「いや、その。俺な、メルカトル図法なら得意やねん。メルカトルの鬼やねん」
「ほう。そしたら、あんたの見てるその地図は何図法やの」
「これか。これはお前、ええと。その」
「何よ」
「マップルやないか」
「ほんで」
「残念ながら俺、マップルだけは苦手やねん」
「この口か。おら。この口か」
「ひい。痛いいたい痛い。おい。ハンドル。前。前。ほら」
「ごのぐぢがー」


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2000/03/15
文責:keith中村
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