第313回 ご当地名物


 もっぱら映画による知識しかないのだが、米国の海兵隊というのはかなり厳しいところらしい。
 海軍が登場する映画というのは枚挙に暇がなく、ミュージカルにも「錨を上げて」「踊る大紐育」「踊る艦隊」などがあるし、「エイリアン2」のように宇宙が舞台の映画ですら荒々しい海兵隊員が活躍していた。海兵隊は海軍のなかでもことに厳しいところであって、隊員は士官学校で徹底的に規律を叩き込まれる。「愛と青春の旅立ち」「フルメタル・ジャケット」などに詳細に描かれている、鬼軍曹が生徒をしごきにしごくあれである。
 軍曹は生徒たちへ悪口讒謗罵詈雑言の限りをつくし、まず彼らの自我を破壊しようとする。新興宗教でもよくやっている洗脳の基本的な手法である。罵言のうち有名なのがこれだ。
「おい、お前はどこで取れた」
「テキサスです、サー」
「ふん。テキサスにはおかまと牛しかいねえと聞くが、お前は角がないからどうやらおかまだな」
「違います、サー」
 私の記憶違いでなければそっくり同じやりとりは「愛と青春の旅立ち」にも「フルメタル・ジャケット」にもあった。もしかしたらこれは米国ではかなり有名な挿話なのかもしれない。それとも、士官学校の指導要領には全米五十すべての州について、Wヤングの都道府県づくしみたいにこの揶揄が整備されているのだろうか。たとえば、カンザスなら、
「カンザスには竜巻とドロシーしかいねえと聞くが、お前はくるくるしてないからどうやらドロシーだな」
 で、
「ユタにはモルモン教徒と恐竜しかいねえと聞くが、お前はゆうべこっそり一発抜いてやがったからどうやら恐竜だな」
 とか、そういうことになっているのだろうか。
 たとえば現代日本に士官学校があったとしたら、やはり同じようなしごきがおこなわれたのだろうか。いや、防衛大学校というのがある。そこではやはりやっているのだろうか。
「おい、お前はどこで取れた」
「北海道です、先生」
「ふん。北海道には熊と畑正憲しかいねえと聞くが、お前は眼鏡をしていないからどうやら熊だな」
「違います、先生」
 このように、熊にされてしまうのもちょっとどうかと思う。眼鏡をかけている生徒ならば畑正憲にされてしまう。それはそれでいかが。昔流行した「大便味のカレーとカレー味の大便、さてどちらを喰いたい」みたいなものである。どっちも厭だ。
 さて、鬼教官の前に整列する士官候補生たち。教官は端から順に声をかけてゆくのであった。
「おい。お前はどこで取れた」
「奈良です、先生」
「奈良には鹿と大仏しかいねえと聞くが、お前は角がないからどうやら大仏だな」
「違います、先生」
 今のはかなり「フルメタル・ジャケット」に近かったな、と教官は内心ちょっと嬉しくなった。
「次、お前はどこだ」
「福岡です」
 教官は咽喉も張り裂けんばかりの大音声で怒鳴った。「先生、だ」
 候補生はあやうくとび上がりそうになりながら答えなおす。
「福岡です、先生」
「ふむ」彼は福岡のデータを頭の中から引っ張りだす。「福岡には武田鉄也と松田聖子しかいねえと聞くが、お前は男だからどうやら武田鉄也だな」
「違います、先生」
 教官は隣の生徒に近づいた。「お前はどこだ」
「長崎です、先生」
「ほう。長崎には伴天連とさだまさししかいねえと聞くが、お前はモップを持ってないからどうやら伴天連だな」
「違います、先生」
 今の出来はもうひとつだったかな、と心中で反省しながら教官は次の生徒の前へ立った。
「お前はどこから来た」
「愛知だぎや、先生」
 教官は再び声を張りあげた。「です、だ」
「愛知です、先生」
「愛知にはナナちゃんと竹下景子しかいねえと聞くが、お前は馬鹿みてえにぼけえっとつっ立ってるからどうやらナナちゃんだな」
「違います、先生」
 それにしても芸能人ばかり出すのもマンネリだな、と教官は考える。「次、お前は」
「島根です、先生」
「ふん。島根か。島根には」教官はぐっと言葉に詰った。「島根には」
 島根県出身の生徒が怪訝そうな顔で教官を見上げる。
「島根には、その、何だ」
「何でありますか、先生」
「島根には。だああ。島根には何もないじゃないか。糞ったれ。何も思いつかん」
「出雲大社があるわや、先生」
「やかましい。教官に口ごたえするつもりか。お前はグラウンド十周だ」
 まことに可哀想な島根県民なのであった。
 そんなわけで、今回はこのへんで沖縄県。


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2000/03/02
文責:keith中村
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