第304回 オークション大魔王


 インターネットは産業革命につぐ社会構造の変革である、とさえ言われることがある。それほど大きなものかどうか私には今ひとつぴんとこないのだが、たとえばある種のビジネスは、確かにインターネットによって既存のものとは違った形態に変貌を遂げている。代表的な例はオークションだ。従来のオークションというとサザビーなんかが有名だが、「モンローが口紅を拭いたクリネックス」やら「ポールの自筆譜面」やら「チャップリンの鼻毛」やら「ディマジオの爪の垢」やら「ザッパの食べ残しの大便」やらそういったものを大金持ちが何万ドルも何十万ドルも出して落札する、という赴きのものであった。だが、インターネットという世界規模でしかも極私的な仕組みを利用することで、今や誰でもオークションに参加できるし、どんなものでもオークションに出品できるようになっている。
 日本でいちばん有名なポータルサイトにも、オークションのコーナーがある。
 ここではありとあらゆる物が、このサイトのお手の物のディレクトリ・サービス的な区分けで整然と出品されている。だが、ミドリムシやらカモノハシを考えてもわかるように、分類というのはあくまで便宜的なものに過ぎず、どんな場合にも例外は存在する。このオークションではあらゆる範疇に属することができなかったそのような品々を「その他」というあまりに雑駁なサラダボウルの中へ抛りこんでいるのだが、ここがかなりものすごい様相を呈しているのであった。
「ペプシマンのキーホルダー 1000円」
 もちろん、これだけ見れば別段驚くようなことは何もない。おそらくは何かの抽選の景品で、買おうと思って手に入るものではないから、千円出しても欲しいという人もいるのだろう。それは構わない。
 しかし、これが、
「開運水晶玉 5000円」
「暖炉、ストーブ用薪700キログラム分 2万5000円」
「説得力強化プログラム 5000円」
 と並列に存在している無秩序さを我々はいかに受け止めればよいのだろうか。そもそも説得力強化プログラムとはいったい何だ。七百キロもの薪をどうしろというのだ。
 だが、こんなもので感心している場合ではない。
「レントゲン車(胸部間接100ミリ)」
 ここから判ることは、「世の中には余ったレントゲン車を売りたいと思っている人もいる」という呆れた事実である。
 詳しい説明も書かれている。
「shimazuの125kvpの装置(オーバーホール済み)cannonの100mmカメラ搭載の三菱キャンター改。昭和57年製ですが、手入れは完璧にしており、内外装共にきれいで、機関および装置の状態も極上です」
 確かに詳しい。だが、何が書かれているのかちっともわからないのである。もっともこれは私が無知なだけで、やはり「レントゲン車といえばそりゃシマズの百二十五kvpで決まりよ。そして、カメラはキヤノン。放射線出すなら、それくらいしないとモグリでしょ」などという人もいるのだろう。ちなみに価格は百五十万円である。安いのか。高いのか。
 すぐ傍に「東海村JCOの石 120円」が売られている。緩やかな駄洒落になっているのは意図してのことか。
「ガイガーカウンターをもっている方におすすめします。石のほかに、木の枝などもありますので、欲しい方は言ってください」
 私はガイガーカウンターを持っていないので、そんなものは要らん。持ってても要らん。
「大自然の好きな方へ」とあるので、何かと思って見ると、土地であった。バンクーバーの土地四十万坪、二億二千万円である。お判りとは思うが、二円を置くのではない。
 以下のような紹介文がついている。
「日本で死にたくなかったので、何処か死に場所として相応しいところかと探して10数年以前に購入した場所です。私が引退後に晴耕雨読と狩猟、魚釣りに適当な場所と思いました。40万坪前後の面積の中には、池が3個所、鹿、黒熊、見たことはないのですが、クーガーや狼も住んでいるとのことですが(ママ)、気を付けていれば、人間には、危険はありません」
 なんだかものすごく味わい深い文章である。そりゃ、気をつけている限りは大丈夫だろう。
「ただのレンズです 500円」
 あまりにそっけないので逆に興味を惹かれて見てみた。写真がついていたが、ほんとうにただのレンズであった。ただ一文、こう紹介されている。
「けっこう文字が大きくみえます」
 当たり前のことが書かれているだけなのに、この強力な説得力はいったい何だ。説得力強化プログラムでも使ったのか。
 混沌と無秩序のオークション、それは我々のすぐ近くにある。
 レントゲン車が欲しいと思っていた人は、急げ。


新着順一覧 − 日付順一覧 − 前を読む − 次を読む − トップページ


2000/01/19
文責:keith中村
webmaster@sorekika.com