第295回 フィフス・エレメント


「三銃士」はかつて何度も映画化されているが、ビートルズ映画を多く手がけたリチャード・レスターもこの作品に取り組んでいる。彼の「三銃士」は脚本がやけに長かったのだそうだ。主演のオリバー・リードはじめ役者たちは訝しみながら、それでも撮影は完了した。いざ公開という段になって、彼らは驚いた。何となれば、公開された映画は「三銃士」「四銃士」の二本だったのだ。リチャード・レスターは俳優たちに内緒で巧妙に二本分の撮影をおこなっていたのである。結局これは出演料を一本分しかもらっていないというので、訴訟になった。
 監督「いつもより多く回しています」
 役者「これでギャラはおんなじ」
 そういうことだったのだろう。
 ダルタニャンは、アトス、アラミス、ポルトスに次ぐ「四人めの三銃士」ということが言える。もちろん、そうなればレスターのように「四銃士」という方が自然であるが、「チャンバラトリオ」だって四人いるわけだから世の中ままならない。
 さて、考えれば「なんとか人めの何々」という言い方は、時折耳にするものだ。たとえばキーボード担当でローリング・ストーンズを支えてきたニック・ホプキンスは「六人目のストーン」と言われた。
 ビートルズにもやはり「五人めのビートル」と言われる人間が何人かいる。
 まずは、ビートルズの公式デビュー前夜、脳内出血で夭逝したベーシストのスチュアート・サトクリフだ。将来を嘱望されながら、これまたデビュー直前に突然降板されたドラマーのピート・ベストもいる。彼ら二人はしばしば「ビートルズになれなかった男」という形容でもっても語られる。
 マネージャーのブライアン・エプスタインも「五人目のビートル」と表現された。プロデューサーのジョージ・マーチンをそう呼んであげてもいいだろう。彼はポールですら弾けないような難しいピアノのフレーズをしばしば肩代わりしている。
 このように考えると、五人めのビートルだけで四人もいることになる。なんということだ。ブライアンにギターを教え込めば、彼らだけで別のバンドになるじゃないか。麻雀ならこれで二卓囲めるぞ。
 だが、ビートルズに関わった人間はまだまだいる。「リボルバー」のジャケットデザインを担当したクラウス・ブアマンはのちにプラスティック・オノ・バンドにベースで参加しているから彼も交ぜてやろう。テディベアーズのフィル・”ウォール・オブ・サウンド”・スペクターも膨大な「レット・イット・ビー」セッションを苦労して編集したから仲間に入れてやる。ええい、ミミおばさん、あんたも入れ。カスタネットくらい叩けるだろ。おい、ジュリアンにショーン、何ぼうっと突っ立ってるんだ。お前らもだ。ヨーコ、今回は特別に仲間に入れてやる。その代わり、奇声をあげるとチョップだからな。リンダ、下手糞でもいいからミニムーグ弾いてなさい。はいはい、シンシア、パティ、こっちですよ。あれ、マイケル・ジャクソンとビリー・ジョエルじゃないか。あんたら関係ないだろ。何、ビートルズになりたいって。仕方ないなあ。おいおい、金沢明子までいるじゃん、まったく。あっ、ペパー軍曹にビリー・シアーズ、あんたらは虚構内人物じゃないか。ええい、出てきた以上はやむを得ん。はいはい、並んで並んで。ええと、あんたらは、え、ドクター・ロバートにエリナー・リグビー。あっ、マッケンジー神父まで。押さないで押さないで。ありゃミス・リジーが眩暈起こして倒れてるよ。わっ。わっ。マックスウェルが金槌もって暴れてる。みなさあん、逃げてください。危険です。危険でえす。
 そんなわけで五人目のビートルはけっこう大所帯なのであった。
 ところで、同じような言い回しに「最後の何々」というものがある。
「坂口安吾は最後の文士であった」
 そういう使いかたをする。もちろん、現在でも作家なんて掃いて捨てるほど存在するわけだが、ここでの「最後の」には「『文士』の形容に値するほんものの」という意味が込められている。要は、これ以降の作家は文士なんて呼ぶにはおこがましいぺいぺいの物書きばかりでほんものはいなくなってしまった、という侮蔑やら寂寞やらの入り交じった感情を表しているのであろう。
 今年になってすぐ三木のり平が鬼籍に入ったとき、「最後のコメディアン逝く」という言い方がされた。もう、あとに残るは似而非コメディアンばかりだというのだ。だが、数ヵ月経って、今度は由利徹が他界したときにもやはり「最後のコメディアン」と言われた。どうやら最後のコメディアンは、いくらでも生まれてくるようだ。やはり次の「最後のコメディアン」は森繁あたりかな。で、その次が植木等やら谷啓あたり。でまた次が伊藤四郎というのが無難な線だろうか。何が無難だ。
 我々は今、未曾有の「最後のコメディアン」量産体制を迎えている。


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1999/12/13
文責:keith中村
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