第279回 エクリチュールの限界


「はい、どうも。キーちゃんです」
「ども、スーちゃんです」
「これからしばらくお付き合いいただくわけですが」
「そうです」
「えー、それでまあ、僕らもね、頑張っていかなあかんなあ言うてるですけどね」
「ほんまやねえ」
「さてさて、ところでやね」
「なんですか」
「僕思うんやけどね」
「うん」
「世の中には、強い言葉と弱い言葉いうのがあるんちゃいますか」
「強い言葉と弱い言葉。ああ、なるほど。こういうことやろ。強い言葉いうのは『しばくぞ、この餓鬼』とかいうやつで、弱いんは『ひいい。殴らないで。顔は。顔だけは』」
「……全然ちやうな」
「ええ。違うんかいな。ほたら、強い言葉弱い言葉いうのはどんなんやねん」
「そやな。たとえばな。植物に、虫媒花と風媒花いうんがあります」
「なんや、えらい難しそうなこと言いはじめたで。まあええわ。ふむ」
「それでやね。虫媒花は強うて、風媒花は弱いねん」
「ほう。……で、何で」
「ええか。よう聞きや」
「うん」
「虫媒花。風媒花」
「……」
「どや」
「どや、て。それ、言い方変えてるだけやん」
「んなことない。阿呆言うたらあかんで、君。ほな、別の例出すで」
「ふむ」
「バービローン。め、め、メソポタミア」
「いや。せやからそれ、言い方だけちやうんか」
「判からん奴やな。バビロンに漲るこの躍動感、それに引きかえメソポタミアのなんちう脆弱なこと。君にはこれが理解できんか」
「君、阿呆やろ」
「ぐがあ」
「何怒ってるねん」
「しくしく。メソポタミア」
「何、不思議な泣き方してんねん」
「ほしたら、もひとつだけ例出すからな」
「ええよ」
「頭陀袋、ズダ袋ぉ。うらうらー」
「……」
「ぽぽぽ、ポチ袋。ぽ、ポチ袋。すみません」
「君、ええ加減にしいや。さっきから、言い方だけや言うてるやろ」
「ふん。わからん奴にはわからんのじゃ」
「そんなんわからんでもええわ」
「話変えましょ」
「ほう」
「あのな。世の中には恐ろしいものと楽しいものがあるねん」
「なんやて」
「世の中には恐ろしいもんと楽しいもんがあるちうとるねん」
「ははあ。もしかしたら、今日麩の味噌汁で、恐怖の味噌汁とかそういうやつやあらへんやろな」
「まさかまさか。誰がそんなしょうむないこと言うかいな」
「ふむ」
「たとえば、湯豆腐にも、恐ろしいもんと楽しいもんがある」
「やっぱり恐怖の味噌汁みたいな話とちやうんか」
「先入観で物言うたらあかんで。ええか、よう聞きや」
「ふむ」
「おお。おおお。恐ろしい湯豆腐。たったっ楽しい湯豆腐」
「やっぱりそうなるんかい」
「何が」
「それ、怖そうに言てるのと、楽しそうに言うてるのの違いだけやちうねん」
「おおお、お、恐ろしい湯」
「そないな恐い顔作らいでもええやろ」
「たったっ楽しい」
「スキップしてるだけやんけ。しかも君、顔が恐いまま、切り替わってないで」
「てへ」
「何がてへ、じゃ」
「ところがやな。このてへ、にもやっぱり恐ろしいてへと楽しいてへがあってな。おおお、恐ろし」
「こら」
「そのこら、にもやっぱり恐ろしいこらと」
「怒るで、しかし」
「しかしにも、やっぱり二つあってやな」
「スキップするなあっ」

※註
 この文章は世界初の塗り絵テキストです。HTMLエディターに読み込んだうえ、お好みにあわせてフォント種やサイズを変更して、お楽しみください。万一、楽しめなくても作者に責任はないものといたしますので、悪しからずご了承ください。

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1999/11/16
文責:keith中村
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