第269回 白と黒


 世の流行には相変わらず疎い。
 ここのところテレビのコマーシャルやら街頭のポスターで無闇と杉本彩を見るなあと感じていた。既に過去の人であるはずの杉本彩が何故いまごろと訝しんでいたのだが、どうやらあれは杉本某ではなく藤原紀香という人だったらしい。ようやくそれに気がついたのだ。実はそれでも藤原紀香という名前だけは以前から聞いたことはあった。随分前に知友が言っていたのだ。だが、その知友は「最近、藤原紀香という女子の人に人気が集まっている。これは漫才師パイレーツが解散し、その右側がピンになったものだ」と私に解説していたのであった。それだから私は藤原某の名を聞くたびに「ああ、だっちうの」と心の中で呟いていた。だが、たばかられていたのであった。今思えばよく人前で言って恥を掻かなかったものだ。
 さて、流行っているというと、ガングロというのがあるらしい。顔を真っ黒に彩色する化粧法であり、女子高生たちを中心に流行しているという。まあ昔でいうならラッツ・アンド・スターがやっていたようなものだろう。確かそれ以前にもシャネルズという楽団がそっくりな化粧を施していた。
 これは顔面が黒いから「顔黒」と言うのかと思って、なんとも筋の悪い命名だなあと感じていた。なんといっても顔面である。
 だいたい響きが滑稽すぎる。
 がんめん。
 がんめん。
 がんめん。
 顔は訓では「かお」である。旧仮名では「かほ」だ。美しい響きである。美しきものである。うりにかきたるちごのかほ、である。しかし音で「ガン」となると途端に情けない語感になるから不思議だ。
 音読みの顔すなわちガンから始まる語は顔回顔輝などの人名を除くとわずかに顔料顔色顔面くらいしか思い付かないのだが、なかでも顔面はとりわけ情けない言葉ではないか。
 顔面と言えばまず思い付くのが、顔面セーフだ。ドッヂボールにおいて、顔面でボールを受けた際には取り落としてもアウトにならないというあれだ。顔面にボールを食らうといたい痛いのだ。顔面神経痛というのもある。やはりこちらも顔面がいたい痛いのだ。しかもこの病気は顔面がぴくぴく痙攣するチックとごっちゃにされる可哀想な病気だ。あるいは顔面射精もしくは顔面シャワーというのもある。幸いこれは顔面がいたい痛いことにはならない。良かったね。ただし顔面がくさい臭いことになってしまうから油断はならない。略して「顔シャ」と言われるが、あれは果たして顔面射精の略なのか顔面シャワーの略なのか気になるところだ。気にしているのは私だけかもしらんが。「有給休暇」の略が「有給」か「有休」かという議論とちょっと似ている。
 とにかく顔面という言葉はかように情けないのだ。広辞苑ですら「顔面」には「顔面を強打する」などというかなり情けない用例がひいてある。
 話を戻すが、ともかく「顔黒」もその情けない顔面家族のはしくれかと思っていたわけだが、実はそうではなくあれは「ガンガン黒い」の略なのだそうだ。だから、テレビなんかでしたり顔のキャスターが「あれは顔面が黒いという意味です」と解説しているのを聞くと、コギャルたらいう女子の人たちは「ガンガンくろいのりゃくなのにさー。チョーばっかねー」と嗤っているらしい。うらうらー。ぼけなす。超馬鹿はお前らだ。
 ところで、わたくしキース中村がもしガングロになれば中村ガングローである。あたかも三田寛子の義兄である。そんなことはどうでもよいが、さて、そういう炭団に目鼻という化粧が流行っているかと思えば、反面昔ながらの色の白いは七難隠すというのもやはりはやりであって、こっちは美白というらしい。
 ビハクである。
 こっちもやはりちょっとどうかという響きを有している。
 ビハク。まあガングロとは違いこっちは辞書にも載っている言葉なのでそれなりの歴史を持っているかそれなりの普及をしているかそういう言葉なのであろうが、なんだかあまり美しいとは思えない。ガングロとどっこいどっこいである。濁点が落ちるとヒハクである。菲薄は才能がないことである。しくしく。飛魄なら人魂だ。プラズマ現象である。どうでもよいがミステリーサークルまでプラズマの仕業にするのはちょっとどうかと思うぞ、大槻教授。人間の悪戯説でいいじゃないか。
「このなんとか化粧品であなたもビハクに」
 何だかあまりなりたくない響きだ。
 なんでも、古代日本語には濁音から始まる言葉はなかったようで、濁音から始まる言葉に違和感があるのはそういうことも関係しているのかもしれない。そもそも「濁」自身が負のイメージを持つ文字であるし。
 清音である「様」が濁ると、ザマを見ろとか死にざまとか汚い言葉になる。小麦粉を溶くときにできるダマはできてほしくない悪い「玉」であろう。銀より金のほうが値打ちがある。
 いずれにせよ私としては女子の人は色白が好みではある。闇夜に鴉より夜目にも白いという方が盛り上がるじゃありませんか。えへへへ。ああこのエロ親爺が。
 最後になりましたが、まあ私はどちらかといえば色白の方ではあります。
 肚は黒いけど。


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1999/10/25
文責:keith中村
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