第268回 固い文章


 文章がかたい、とよく言われる。
 これが固い堅い硬いのうちのどれであるのかは判らぬが、堅固な文章という言い方は余り使われないし、堅苦しい文章、生硬な文章ともにいい意味ではないから、文章がかたいというのはやはり褒め言葉ではなさそうだ。平仮名でかたいと表記するとややしまりがないので以下広義の「かたい」にはとりあえず「固」の字を宛てるが、そもそも大抵の場合固いというのは批判的な意味で使われるものであるだろう。
 堅い人間だという評価は褒め言葉のようでいて、実のところ、粋を解さぬ朴念仁だと遠回しに表現しているわけだし、考えてみれば褒め言葉として「固い」が使われるのは体のある部分を示す場合しかないのではあるまいか。男として生れたからには誰しも、やはりその部分が固いと言われれば嬉しいものである。
 あなたが何を想像しているかにかかわらず、もちろん私は「口」のことを言っているのであるが、それはさておきとにかく文章が固いと言われるのであった。
 では、私の文章はいったいどの辺りがどのように固いと判断されてしまうのだろうか。
 ひとつには文章が長いということが考えられる。文字というのは人間の発明であるにもかかわらずどうも人は文字がたくさん並んでいると拒絶反応を示すようで、たとえば会社で使うプレゼンテーション資料などでもあまり文字を並べ過ぎると「もっと簡潔かつ平易な表現を使え」などと注意されたりする。おそらく、プレゼンテーションを受けるお偉方というのは頭が悪い人が多く、そういう人へ配慮せよということなのだろう。このページにしても、ぎっちりと並んだ字面を見ただけで辟易する人は多いのではなかろうか。かといって、このページの文章がもっと少なかったら、それはそれで怒りだす人が出てくるのではないかと思う。
 たとえば、
「昨日、さんまを食べた。おいしかった。以上」
 非常にすっきりとした文章である。しかし、これではまるで小学生の作文である。情けなくて泣けてくる。
 あるいはもっと短く、ただ一文字、
「れ」
 と書いてあるだけだったとしたら。やはりほとんどの人は「ふざけとるのか」とお怒りになることだろう。これが密室殺人の被害者が残したダイイング・メッセージででもない限り、「れ」とは何だいったいどんな意味があるのだ、と考えてくれる人はいないだろう。
 ということはやはりある程度まとまった文章は必要だということになるのではないか。
 文章の量の問題ではないとすれば、もしかしたら使用する文字が原因なのかもしれない。一般に漢字が多い文章は読みにくいとされているから、そういうことなのかもしれない。しかし私の経験上、漢字の多い文章よりむしろ平仮名ばかりで書かれた文章のほうがよほど読みにくい。もっと読みにくいのは片仮名ばかりの文章である。漫画に登場するロボットの科白を読みとばしてしまうのは私だけではないだろう。
「ピーピーゴシュジンサマオヨビニナリマシタカナンナリトゴメイレイヲピーピー」
 登場人物がすべてロボットであるような漫画なら私はきいと叫んで破り棄ててしまうはずだ。
 平仮名片仮名よりもっと種類が少ないのはアルファベットであり、国によって若干差異はあるが基本的には二十六文字しか使わずにすべてのことを表記できる。ということはもし私がたとえば英語で書けば、漢字が多くて読みにくいという意見はなくなるだろうけれど、皆さんがこれをお読みになっているのはもちろん日本語化されたコンピュータ上であり、英語で書かれたページは表示できないだろうから、残念ながらそれも無理である。決して私が英語が苦手だから無理だということではないので、そこのところ誤解なきよう。
 文章を固くさせている原因はそうではなく、文体の問題かもしれない。文章を常体敬体に大別すると、私は大抵常体すなわち「だである調」を使っており、これが文章を固くしているのではあるまいか。ということはそれを改善すれば、もっと柔かい文章になるのではないだろうか。譬えば「ですます調」いやもっと柔かい調子でやってみよう。
 さて、こんな具合でちゅーばぶばぶ。いかがでございまちゅかーばぶばぶ。読みやすくなってまちゅかーばぶばぶ。ぴょこぴょこぴょこ。これはこれで書いている方はかなり面倒臭いのでちゅーばぶばぶ。逆に煩瑣で読みにくいのではないでちゅかーばぶばぶ。
 駄目だ。やはり疲れる。途中でイクラちゃんを走らせたりもしてみたが、そんな小手先のことでは本質的な改善にはならぬだろう。
 そうか、文章中に笑いを取り入れれば柔らかくなるのではないか。固い文章というのはどことなく殺風景であるから、駄洒落でも取り入れればよいのだ。やってみよう。
「固い文章の開祖は、自然主義の父、田山花袋だと言われている」
 ……むむ。
 そうっとしておいてほしい。私は今猛烈に落ち込んでいるところなのだ。 


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1999/10/22
文責:keith中村
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