第258回 御一緒に


 全世界的に展開しているあるハンバーガー屋では注文するときに、「御一緒にポテトはいかがですか」と訊かれることがよく知られている。この店にはこれとは別に、「ここでお召しあがりになりますか、それともお持ちかえりですか」という質問についつい「お召しあがりです」「お持ちかえりです」などとうっかり答えそうになるという罠も仕掛けられているのだが、今私が問題にしたいのは「御一緒にポテトもいかがですか」のほうである。
 これはコンビニエンス・ストアの充実した品揃えやコンピュータのソフトウェアの無用なバージョンアップと同様に「意識されなかった購買意欲を喚起させる」という目的で発せられる質問であろう。しかし、私じしんこの質問に「そうだなあ。じゃあ、それも貰おうか」という気になったことはない。実際これでどれくらい売上が増しているのかは疑問だが、質問するだけならコストはかからないのだからたとえ百人にひとり千人にひとりがこの質問によってフライドポテトを購買するだけだとしても、店にとってはしないよりはずっとよいのだろう。
 ところで、全国的に展開しているある牛丼屋でも、いつの頃からか同様の質問が発せられるようになった。
「並」
「御一緒に卵や味噌汁はいかがですか」
 あるいは、
「並卵味噌汁」
「御一緒に漬物やサラダはいかがですか」
 この牛丼屋では副食物がいくつもあるため、質問にはいく通りかが存在することになる。店員は客の注文を聞いてそれを補完する質問をするのだ。だが、この方法には問題がある。この店では一般にアルバイト店員の研修がハンバーガー屋よりもしっかりしていないのだ。私がくだんの店に行ったとき、こういうことがあったのだ。
「並と卵と味噌汁と漬物」
「御一緒に。あ」
 おそらく店員は入りたての不馴れなアルバイトであったのだろう。教わった通りに質問をしようと発声している最中に私がすべてのものを注文したことに気づいたのである。機転をきかせればよかったのかもしれないが、とはいえ「御一緒にサラダはいかがですか」というのもすでに漬物を頼んでいるので不自然だろうし、「御一緒に特盛はいかがですか」というのも意表を突き過ぎている。店員は「あ」と口を開いたまま暫く絶句していた。あの間合いは店員にとってちょっと辛かったろう。が、私もちょっと辛かった。
 私は不精なもので、ときおり宅配のピザを利用しているのだが、その電話注文でも近ごろこの質問を耳にするようになった。こういうことがあった。
 私がピザとミネラル・ウォーターを頼んだときのことだ。電話の向こうでいかにも新入りらしいたどたどしい声が言った。
「御一緒にドリンクはいかがですか」
 緊張のあまり私がミネラル・ウォーターを頼んだことが意識から飛んでしまって、マニュアルどおりに質問したようだ。
 私はちょっと困惑した。「ミネラル・ウォーターはドリンクには入らないんですか」と訊きかえしてみようかと考えたが、それもちょっと意地悪である。もっと重大な問題はその質問が「バナナはおやつに入らないんですか」に酷似していることだ。そんな恥ずかしい質問はしたくない。かといって「いや、結構です」というと、ミネラル・ウォーターの注文まで通らなくなってしまうかもしれない。悩んだ末、私は答えた。
「じゃあ烏龍茶も」
 結局私の元にはピザとミネラル・ウォーターと烏龍茶が届られた。何だったんだ。新手の販売促進法か。
 この「御一緒に」はもしかしたら今後もっとさまざまな店でも使われるようになるかもしれない。私はそれを憂慮する。
 たとえば、骨董屋。ぶらりと立ち寄ってみると、なんとなく趣味の良さそうな蛸壺がある。
「すみません。この蛸壺ください」
「御一緒に、頼朝公十二歳の御時のしゃれこうべはいかがですか」
「結構です」
「じゃあ、こっちの弁慶の薙刀はいかがですか。しかも未使用品です」
「結構です」
 デパートは品揃えが豊富だからもっと大変だ。
「この靴ください」
「はい、ありがとうございます。御一緒に五階家庭用品売り場の便座カバーはいかがですか」
「いりません」
「では御一緒に八階冠婚葬祭コーナーのお仏壇はいかがですか」
「いらないったら」
 この調子で全階の品物を勧められては堪ったものではない。
 とはいえ、品数が少ないのもまた問題だろう。たとえば畳屋さんだ。
「すみません。畳ください」
 まあ、そんな風に買いにゆくことは滅多になかろうが、たとえば、である。
「すみません。畳ください」
「へい。御一緒にこっちの畳はいかがっすか」
「いや、結構です」
「じゃあ、こっちの畳なんかはどうです」
「いや、結構です」
 なんだかよく判らない。
 貸しビデオ屋はどうだろう。
「あの……。この『うっふん・むれむれ看護婦さん』を二泊三日で」
「御一緒にフェリーニの『道』はいかがですか」
 いや、これはありえないか。こういう場合、人は勧められなくても何故か堅い映画を一緒に借りるものなのである。しかもそっちを上に重ねて。何故だろう。何故かしら。
 それより、題名読み上げて借りるなよ。むれむれー。


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1999/09/23
文責:keith中村
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