第257回 馬の助


 競馬というものをしない。競馬に限ったことではなく競輪競艇宝くじ等賭け事にはまったく興味がない。唯一の例外が麻雀であり、どうしたことかこれだけは私にとって大変おもしろくそもそも私が初めて麻雀に(以下二万七千文字省略)。
 さて私の周囲には競馬が大好きな者も幾人かいるのだが、彼らは口を揃えたかのように「競馬というものは、賭けなくても、馬を見ているだけで楽しい」と言う。これはまったくの嘘だろう。麻雀が好きな人間で「牌を見ているだけで楽しい」などという者はいないだろうし、宝くじをただ見つめてにやにやしている奴がいたら気持ちが悪い。そもそも「馬を見ているだけで楽しい」という奴に限って決して見るだけでは満足せず、五千円スっただの一万円スっただのとぐずぐず喧しい。
 馬を見るだけで楽しいというのはそんなわけでいささか疑わしい発言なのだが、これが馬の名前となると確かに眺めているだけで楽しいということを発見した。
 あれこれ調べてみたのだが、競走馬の名前は九文字以下のカタカナでつけるということになっているが他にはそれほど堅い規定はないようで、この緩やかさのおかげでかなり何でもありの状況になっているようだ。
 たとえば、これは他の分野でもよく見られるが、有名人や流行語をもとに命名するのがある。こんな馬を見つけた。
「キムタック」
 どこかのメインフレームにありそうな名前だが、もとになっているのはスマップの人だろう。あるいは漫画のキャラクタもある。
「ピカチューセンプー」
「タガノピカチュウ」
「リネンピカチュウ」
 ちょっともじったものもある。
「ウサピュー」
 うさぴゅう。何という可愛らしい名前だろう。うさぴゅう。私はうさぴゅうを愛す。
 しかし、この流儀はすぐ時代おくれになってしまうという欠点があり、すでに可哀相なことになっている馬もいる。
「ムテキダッチューノ」
「クラダッチューノ」
「オオヨドダチューノ」
 だが、この手の例はまだ比較的おとなしいほうであり、特に地方競馬では命名規則がより緩やかなようで、もっとかなりなことになっている名前は数多い。
「ケロケロジャンプ」
「オトモダチ」
「ラララン」
「ギャフン」
 かなり投げやりであるといわざるをえない。が、もっとひどいのもある。
「ミスシシャモ」
 なぜししゃもなのだろうか。しかもミスということは子持ちでないからおいしくないぞ。
「サイゴマデガンバレ」
 呼びかけてどうしようというのだ。
「ハルガキタヘイ」
 春が来た、へいっ。そんなに嬉しいか。
「ナツダッチャ」
 いかん、今度はラムだよ。
「ナグルチャンス」
 そんな機会伺ってないで、走りなさい。
「ガムシャーラー」
 我武者羅、である。確かに「颱風」から「タイフーン」、「大君」から「タイクーン」という英語は作られたが、だからといって音をのばしたからといって必ずしも西洋語風になるわけではないという見本である。「ザブトーン」とか「ミズマクーラー」とか「タコヤッキー」とかそういうことをしちゃいかんということである。むしろ怪獣の名に思えるし。
「マイルーラー」という馬もいる。マイルーラーが何か知らない人は隣の席の綺麗なお姉さんにでも聞いてください。
「クリチャン」
 んまあ、厭らしいっ。ってのは考えすぎかな。
「チェリーコウマン」
「コウマンサウンド」
 きゃああっ。厭らしいっ。やはり考えすぎなのか。
「パパパンチ」というのもある。父が殴るのか、それとも自由業の父なのか判然としない。と思ったら「ママノパンチ」というのもあった。ママも極道であったようだ。
 ほかの生物の名前がついている競走馬もある。
「チーター」という馬がいるのだ。まあ速いということにあやかっているのだろうけれど、ちょっと紛らわしい。
「ロバノパンヤ」
 かなり紛らわしい。「ロバノパンヤ追い上げます。ロバノパンヤ速い。ロバノパンヤ速い。ロバノパンヤ一着です」
 そんなのは邪道だあっ。
 まあ、ロバのパン屋さんもかつて馬を使ったりしてたからお互い様か。
「タケユタカ」というのもいる。本当にいるのだ。いいのかな。
「シイタケ」
「ビリケンサン」
 お前ら、どんな具合にあやかるつもりだ。
 いっそ「ウマ」という競走馬にすればどうだろう。「ウマ速い。ウマ速い。ウマぶっちぎりです」いや、それ全部馬だろ。
 または「イチバシン」「ニバシン」という馬はどうだろう。
「各馬いっせいに第四コーナー曲がって。かなりの混戦です。さあ、どうなるか。イチバシン先頭。ニバシン追い上げます。イチバシンかニバシンか、ニバシン前へ出た。ニバシンだ。ニバシン、イチバシンに一馬身差をつけて一着です」
 これでは何が何だか判らない。
「グッドネスオカダ」という馬もいた。また出た。オカダだよ。オカダがそんなにいいのか。
 また痛い目にあわせないと仕方なかろうな。
 喰らえ。パパパンチ。えいっ。
 もう一丁。ママノパンチ。うりゃ。


新着順一覧 − 日付順一覧 − 前を読む − 次を読む − トップページ


1999/09/20
文責:keith中村
webmaster@sorekika.com