第255回 クは苦しいのク


 先日の一九九九年九月九日はコンピュータ業界ではクリティカル・デイトだというのでちょっとだけ話題になったが、実際にはほとんど問題は発生しなかったようだ。まあ月や日を二桁で扱うシステムならばこの日付は決して九並びにはならないので、それも当然だろう。それよりも心配なのは今年の九九月九九日である。この日こそは完全に九並びになってしまう。世間では二千年問題が取り沙汰されているが、どういうわけかこの日付については聞いたことがない。ちゃんと対応はできているのだろうか。
 などと教科書通りのつまらない展開をしても、読んでいるほうも退屈だろう。すまないことである。
 さて、コンピュータ業界以外の日常では「09」などという表記はせぬわけで、それならばこの日が九並びであったことに間違いはなく、そんなわけでこの日は九にちなんだ催しが各地でおこなわれたようである。
 こういう綺麗な並びの数字の日にまず動くのは例の切手マニアとか鉄道マニアとかで、日付の刻印された消印やら切符やらを手に入れて喜んだりするものだが、たしかその両者とも表記は元号だったはずだから今回はそういう活動はなかったのかもしれない。そういえば昭和五十五年五月五日に私は近所の郵便局へ行って切手に五並びの消印を押してもらった。今から考えると何が嬉しいんだかよくわからないのだが、当時はそれで機嫌よくしていた。まあ、馬鹿の小学生のやったことだから見逃してほしい。
 今回の九並びではそんなわけでそういうマニアの人たちの活動ではないものがいくつもあったようだ。
 まず、九年会ファッションショーというのが開催されたらしい。これは昭和九年生まれの芸能人だけで結成された、例の九年会会員たちがモデルを勤めるファッションショーである。
 大分県の九重町では「999フェスタイン九重」というイベントが開催された。内容はというとアニメ映画「銀河鉄道999」の上映会、その主題歌を唄っていたタケカワユキヒデのライブ、一九九九枚の連凧あげなどであった。
 財津和夫率いるチューリップは京都でミニライブを行った。これは二十年ほど前の彼らのライブでの発言がきっかけである。当時のライブで財津は言った。
「一九九九年九月九日九時九分九秒にもう一度会いましょう」
 居合わせたファンのうちこの言葉を覚えていたものが京都に集結した。その数は九九九人にも達したらしい。これをきっかけにチューリップは活動を再開するようで、やはりチューリップだけに数字が並んだから再び花開いたということだろう。
 坂本九を偲ぶ会というのもあったようだ。坂本九と親交のあった芸能人たちが集まって彼の歌を合唱したのだが、これは一八八八年八月八日にあった中村八大を偲ぶ会に続いてのもの。しかし何しろ百年以上も間が開いているだけに前回の参加者はほとんどが故人となっており、今回の参加者のうち、前回の催しにも参加した経験があるのは黒柳徹子だけだった。彼女は二六六六年六月六日に開催される予定の永六輔を偲ぶ会に関しても「是非とも参加したい」と語った。
 また、茨城県では謎の集団が現れオバQ音頭を踊りながら練り歩いた。実はこれは「オバQ音頭保存会」のデモンストレーションであり、古参会員のひとりA氏は「この日がくるのをずっと待っていました」と感涙に咽んでいた。
 千葉の幕張メッセではちょうど「ワールドPCエキスポ」の開催期間中であり、この日アップル社の出展ブースでは「マックOS9」発表記念も兼ね、まだ日本では発売されていないアイブックを抽選で九名に無償プレゼントするというイベントがあった。私も会社の命を受けてこの会場に居合わせこれに応募したのだが、幸運にも当選してしまった。籤運のない私にとっては前代未聞のことであり、とても喜ばしいことであったのだが、景品のアイブックのあまりの重さに耐えられず、海浜幕張駅のごみ箱に捨ててきてしまった。
 不可解な事件もあった。東京ではある学校の校庭に学習机をいくつも組み合わせて作った謎の「9」の文字が発見された。警察が現場近くにいた「ベントラベントラ」と叫んでいる不審な男に尋問したところ、男は自分の仕業であることを自白した。なんでも太陽系第九惑星である冥王星からの宇宙人を呼ぼうとしてのことだったらしい。
 栃木県那須温泉では、殺生石から九尾の狐が蘇り村民を襲うという事件があったが、玄翁を手にした地元青年団によって退治され事なきを得た。襲われた村民は「九死に一生を得た」とほっと胸をなでおろしている。
 などというように列挙型の文章を書くと、よほどネタに困窮していると誤解され「もう死に体じゃないのか。九腸寸断す、だよ」という意見もあるかもしれないが、作者は「九すれば通ず」という心境のようである。
 とにもかくにもここまで読んでいただいた方に九拝。


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1999/09/11
文責:keith中村
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