第253回 電算機でのデータ保存について


 これまでに私がいちばんたくさん製品を買っているソフトハウスはマイクロソフトでもロータスでもない。
 アイディ・ソフトウェアという会社である。この会社は知らない人は知らないが、知っている人は知っている会社である。まったくなんというあたりまえのことを書いているのか、私は。
 アイディ・ソフトウェアというのはゲーム会社である。私はちまちまパラメータをあげて喜ぶ種類のゲームが好きではないし、たいていのゲームというのはちまちまパラメータをあげて喜ぶ種類のものだから、ゲームにはそれほど興味がない。ただし一人称三次元ゲームは別である。
 一人称三次元ゲームというのはようするに画面が主人公の視線になっているものである。前進すれば前の風景が近付いてきて、右を向けば画面全体が右にパンする。
 この手のゲームのはしりであり、エポックメイキングであったのがアイディ・ソフトウェアの「ドゥーム」というゲームである。マニアの人ならそれ以前の「ウルフシュタイン3D」をもって開祖となすだろうが、現在の一人称三次元ゲームの直接の原典はやはり「ドゥーム」であろう。
 知らない人のために簡単に説明しておく。「ドゥーム」は先に書いたような一人称視点で進行するゲームで、画面の下からはにょっきりと主人公のつまり自分の手が生えている。で、何をするかというと、この手にもったピストルなり機関銃なりという武器で現れる敵をやっつけるのだ。一応は鍵を見つけて開けないと先へすすめない扉などという設定もあるけれど、その鍵は簡単に見つかるので、まあとにかく撃ちまくって先へすすめばよい、そういう趣旨のゲームである。操作も単純で、矢印キーで前後左右に移動、コントロール・キーで銃を撃つ、他にもうちょっとあるのだが基本はそれだけである。このボタンとこのボタンを一緒に押してから、こっちを二回押すと必殺技が出るとかそういうあれは一切ない。一言でいうなら「頭悪くてもできるゲーム」である。
 敵をやっつけるゲームというのはたいてい雑魚をやっつけると五十点、ボスなら千点とかいう具合に得点がつき、それを競うものであるが、このゲームには得点というのはない。あるいは、この雑魚をやっつけると経験値が五あがり、ボスなら百あがる、というようにちまちまパラメータあげて喜ぶゲームもあるが、このゲームにはそれもない。生命パラメータのようなものはあるにはあり、それがゼロになったら死んでしまうのであるが、この数値は強い敵にやられたら百パーセントから一気にゼロになって「はっぎゃあ」などという悲しい声をあげて死んでしまうのだから決して「ちまちま」はしていない。だから、生命値が少なくなってきたら「やくそう」で恢復させてまた攻撃する、などという辛気臭い苦役は必要でない。
 必勝法はひとつである。
「撃たれない。そして、撃つ」
 言うなれば「頭悪そうなゲーム」である。
 私はかつてこの「ドゥーム」に熱中したものだ。今ではこの種類のゲームも猿真似や亜流を産み出しながらだんだん進化している。
「ドゥーム」の次にアイディ・ソフトウェアが満を持して発表したのが「クェーク」である。これが素晴らしかった。どんなふうに素晴らしかったか、内容を簡単に書く。画面は一人称視点の三次元であり、矢印キーで前後左右に動く。それから、コントロール・キーで銃を撃つ。それでもって、どんどん敵をやっつけて先へ行く、そういうゲームだったのだ。一緒じゃないか、という意見もあろうが全然違うのだ。実は「クェーク」には「ドゥーム」になかった機能がひとつ加わったのである。それがこれだ。
「ジャンプする」
 どうだ。素晴らしいではないか。これまではひたすら走りまわるしかなかったのに、今度はジャンプできるのだ。しかも同時に「ふはっ」と喋るのだ。いかにも、「頑張って跳んでるっす」というように。
 初めてこの機能を知ったとき、私は「ははあ。敵の弾を跳んでよけることができるのだなあ」と思ったのだが、これは大きな間違いであった。跳んでも当るものは当るのだ。つまり、これはもっと混じりっけのない「純粋ジャンプ」なのであった。けだし大きな変化といえよう。
 だが、同社のたゆまぬ努力と研鑚はここで留まることはなかった。次に発表された「クェーク2」ではもっと凄い機能が附加されていたのである。それがこれだ。
「しゃがむ」
 前作ではジャンプしたのだ。次は空くらい飛ばなきゃ嘘だ、と誰もが思うだろう。だが、違う。しゃがむ、のであった。そしてやっぱり、しゃがむことで敵からの被弾を避けることはできないのである。この機能は次の目的のためにあるのだ。
「せまいところの物を取る」
 凄いじゃないか、アイディ・ソフトウェア。鳴り物入りの話題作にそんなせせこましい機能をつけているのだ。そもそも「せまいところ」をマップからなくせばそんな機能は必要ないじゃないか。私はここにアメリカという国の懐の広さを感じたのである。せまいのに。
 懐が狭いと言えば日本のゲームである。何がいかんといって、データをセーブできる場所が限定されているソフトが多過ぎるのだ。いわく、「タイプライターを見つけないとセーブできない」だの、「神殿に入らないとセーブできない」だの、「ターンの区切りでないとセーブできない」だの、貴様ら人に物を売るのにそういう態度でいいのか、と思えるような我が儘放題なのであった。あちらさんのゲームを見習え。いつでもどこでもセーブできるのだ。あんまり気軽すぎてうっかり敵のミサイルが当る直前にセーブするキーを押してしてしまうこともあるくらいなのだぞ。何度ロードしてもその直後に「どっかあん」、ご昇天だ。畜生。
 特定の条件下でしかセーブできないようにしている理由はいったい何だろう。その方が処理がしやすいのだろうか。これを一般のアプリケーションに置き換えてみると如何に尋常でないことかが判る。
 たとえばワープロで文書を作っているのだ。で、保存しようとするとダイアログが出てくる。
「次のページまで冒険の書をすすめないと保存できません」
 ええい、この抜け作ソフト。誰も冒険の書など書いとらん。この書類は今日が締め切りなのだぞ。
 あるいは表計算ソフト。「上書き保存」を選択すると、ダイアログだ。
「神殿の隠れているセルを見つけないと保存できません」
 だああ。まるでマクロ・ウィルスではないか。
 または住所録データベース。山田さんの住所を入力し終えて保存させる。あっ、今度はちゃんと保存できたぞ。と思った途端にメッセージだ。
「ゆうしゃよ。ふたたび山田さんをしょうかんするにはつぎのじゅもんをにゅうりょくするがよい。へめほげぽぬべろんちよめけぴろぴろ」
 誰が勇者なんだよ、こら。
 このようなソフトがあれば、やはりここは一発チョップしてやる他はないのではなかろうか。跳び蹴りも可。
 だいたい我々が日頃使っているこのOSやらあのOSやらはいつ落ちてもおかしくない欠陥商品なのだから、せめてその上で使うツールでは任意に保存くらいさせてもらいたい。
 当該のソフトハウスは上記の趣旨を理解したら即刻改善するように。よろしいな。
 だって、いくら歩き回ってもリンクゲートなんて辿り付けないんだもん。 


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1999/09/02
文責:keith中村
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