第252回 第三の性


 生物はその生殖方法に二通りあり、すなわち無性生殖と有性生殖である。無性生殖には単為生殖と言われる単一の性のひとつの個体のみで生殖活動をおこなえるものやあるいは細胞分裂などの砕片分離があり、有性生殖には両性生殖や自家受精がある。われわれ人間はもちろん有性生殖をおこなう生物であるが、といってもそのうちの自家受精ではなく両性生殖のほうである。自家受精というのは両性具有の人間が自分のナニと自分のアレでもっていやそのごにょごにょそういう行為で生殖すれば可能だろうけれど両性具有の人というのは大抵生殖能力がないようで、そういう例はない。もしかしたら二千年ほど前に例の大工の嫁が孕んだのはそういう仕組みだったかもしれないけれど迂闊なことを言うと刺されたり回し蹴りされたりしかねない。あるいはチョップを喰らうかもしれぬ。チョップはいやだ。
 そんなわけで、と言ってもどんなわけだか判らないがまあそういうことで人間は両性生殖をおこなう生物なのであり、両性生殖というのはほらお嬢さん私のこのナニとですねえあなたのそのアレをほれこうしてこうしてこういう具合にすることなのであるが、ああやめなさい暴れるでない暴れるでおとなしくしなさいこら痛ててててチョップはよしなさいチョップは。
 私は空想するのだが、もし人間が無性生殖をおこなう生き物であったならどうだったか。両性の合意なしに個体のみで繁殖するのである。
「ああ。山田くん山田くん」
「はい。部長」
「その君にそっくりな人は誰だね」
「さっき殖えました」
「殖えましたって君ねえ。どういうことだい」
「いや、なんか、そういう気分だったから」
 学校での訓話もこんなものになるだろう。
「ああさて。いよいよ明日から夏休みになるわけです。夏というのはどうしても開放的になる季節です。ついつい一時の感情に流されて羽目をはずしたくなる季節です。んが、しかし皆さん、よろしいか。みなさんの本分は学業です。殖えたりしてはいけません。よろしいか。殖えてはいかんのです。君たちが気軽に殖えたりするとこれはもう大変なことになります。よろしいか、入学当時このクラスは四十人でした。ところがどうですか、見回してごらんなさい。ほれ。すでに五十一人になっています。この調子で殖えられたらそりゃもう大騒ぎです。三組をご覧なさい。あんまり殖えすぎたんで今じゃ廊下にまで机を並べて授業やってます。そんなことになると大変です。ね。君たちも大変だし、先生も大変です。田中くん、特に君は注意してくださいね」
「はい」
「それから田中君の子、君も注意ね」
「はい」
「田中君の子の子、君はそういう家系だから気をつけなさいね」
「はい」
「それから田中君の子の子の子」
 これではまるでミミズかカイガラムシか山村貞子である。
「今度殖えたらチョップするよ」
 チョップはいやである。
 ところでこういう生殖の形態は地球上の生物のみに適用されるものであり、と言ってももちろん今のところ生命体は地球のみに観測されるものであるからそれも当然なのだが、もしかしたらまったく異なった生殖方法をとる生命がまったく別の惑星に存在するかもしれない。
 たとえば三種類の性を持った生物がいるかもしれない。そこでは「オトコ」「オンナ」の他にもうひとつ性があるのだ。呼称がないと話がすすめにくい。何でもいいのだが頭韻を揃える意味でそれを「オカダ」と呼ぶことにしよう。その惑星には「オトコ」「オンナ」「オカダ」の三つの性があるのだ。
 事態はかなり複雑である。
 小学生の頃、女子の人たちにまじって男子が一緒に遊んでいると我々は「女の中にー男がひとりー」と囃したてたものだが、この惑星ではそれが「女の中にー岡田がひとりー」という具合になるのだ。ちょっと妙だ。
 あるいは「岡田の中にー女がひとりー」というのもかなりすごい。
 こういう囃し方もあった。「やーいオトコ女ー」あるいは「やーいオンナ男ー」。こういうことを言われた際我々は「きい」と叫んだり「ぴくぴくぴく」と耳を動かしたりしたものだが、この手の揶揄も六通りできることになる。
「やーい、この岡田女」
「やーい。男岡田やーい」
 そういう塩梅である。もう我々地球人の常識では掌握できぬ事態ではないか。
 私学にも「男子校」「女子校」「岡田校」がある。「女子大学」だけでなく「岡田大学」もある。バカ田大学ではない。
 恋愛も大変である。「男」「女」「岡田」が揃っていないと恋人同士とは言えぬのだ。まあ三人が同時に恋に落ちることはないだろうから、やはり「一人」→「二人」→「三人」の順で恋愛関係が成立するわけだが、二人というのはまだ完全な恋愛関係とは言えないのだ。
「僕たち、男と女は揃ってるんですけど、岡田いない歴二年でーす」
 そういう言い回しになってしまうのか。
 また次のような場面もありえるだろう。
「花子さん。最初っからあなたに決めてました。よろしくお願いします」
「ごめんなさい」
「おおっと、これは大どんでん返しだ。花子さん、どこがいけなかったんでしょう」
「て言うかー。えーっとー。彼のほうはー、結構いけてるーって感じぃ、みたいなー。でーもー、岡田の方はちょっと勘弁ー、みたいなー」
 ちゃんと喋れ。チョップするよ。
 さて、この惑星での生殖行為は我々のいわゆるところの「3P」である。それが羨ましいんだか羨ましくないんだかまったく判らないが。そもそもどういう行為をするのかが地球人には想像もつかない。男と女は地球と酷似した行為でもって、岡田はその間、男の鼻に指を詰めているのかもしれない。あるいはその間、岡田は女子の人の鼻をつまんでいるのかもしれない。岡田のやることは我々には難解である。
 倒錯した性というのももちろんあるだろう。地球ならゲイとレズの二通りしかないが、この惑星ではもっともっとたくさんの倒錯が発生しうる。「男男男」とか、「男女男」とか、「男男岡田」とか「岡田女女」とか、中には「岡田岡田岡田」というすさまじいものまであるだろう。「岡田岡田岡田」はすごいぞ。なにしろ、三者がそれぞれの鼻に指を詰めあうのだから。
 更にはここに別の範疇の倒錯が重なってくる。
「男男岡田かつデブ専かつショタコン」
「岡田岡田岡田かつロリコンかつボンデージ」
「女岡田女かつSMかつ幼児プレイ」
 女性雑誌の告白欄もちょっと結構なものになるだろう。
「ひと夏のアバンチュール。旅さきでふたりの岡田にファンファンされちゃいました。うふっ」
 ニャンニャンじゃないのか。なんだ、そのファンファンというのは。岡田だからなのか。
 ひとりはきっと岡田じゃなかったはずだぞ。そいつはE・H・エリックだ。
 そんなこんなで三つの性をもった惑星はたいへんな騒ぎなのであった。
 そんな惑星にはチョップだ。うりゃ。チョップ。


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1999/08/27
文責:keith中村
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