第246回 トリニティ


 世界は戦いで満たされている。見わたせばそこかしこで諍いが生じている。遠い空の向こうの話ではない。ここにもひとつの戦いが始まろうとしている。
「世界三大美女といえば」
 いきなりの質問である。が、それくらいは難なく答えられるというものだ。
「楊貴妃、クレオパトラ、小野小町」
「ふん」敵は鼻をならした。「では、世界三大ギタリストは」
「ペイジ、クラプトン、ベック」
「まあ、これは小手調べだ」敵はそういうときっと目を光らせた。「では、世界三大ドンといえば」
 私はうろたえた。「ええと」
 どういうことだ。ドンとは何だ。首領のことだろうか。困惑しながらも頭を働かせた。「……ドン・ファン、ドン・キホーテ、ドン・ジョバンニか」
 にやり。敵が笑った。「甘いな」
「違うのか」
 私の口から小さくそんな言葉が洩れた。
「ああ。全然違う。いいか、よく聞け」そういうと敵は私に人差し指を突きつけた。「世界三大ドン。それはすなわち。うどん、テポドン、ハルマゲドン也」
「……」
「……」
「あっ」
「何が、あっ、だ」
「あっ」
 私は再び繰り返した。そういうことか。
「何が、あっ、だってば」
「そういうつもりなんだな。よしではこっちにも考えがある」私は体勢をたて直した。「行くぞ。世界三大チュウ」
 敵は少し考えると口を開いた。「白昼、ピカチュー、アイウォンチュッ」
 なかなかやるな。思っている間に敵が反撃してきた。「世界三大ポーとは」
 私はしばらく考えてから言った。「寸法、漢方、アラン・ポー」
 戦争が始まった。
「ならば問う。世界三大ブーとは」
「バンブー、ひでぶー、高木ブーだ。では世界三大イスは」
「スイス、レディース、すけべ椅子。世界三大ロンは」
「烏龍、パトロン、『その八筒、ロン』。世界三大ムスは」
「アニムス、天むす、ノストラダムスだ」
「なかなかやるな」
「ふんっ。次はちょっと難しいぞ。世界三大サイトとは」
「ええと。……麻糸、パラサイト、エロサイト。ふう。では世界三大バコは」
「煙草、オオバコ、跳梁跋扈。世界三大ライダーは」
「グライダー、仮面ライダー、ウィノナ・ライダー。では世界三大インは」
「サイン、コサイン、三千院」
 互いに一歩も讓らぬ熾烈な争いである。
「では。世界三大ベン」
「検便、和田勉、アウフヘーベン。それでは世界三大タイは」
「ムエ・タイ、包帯、カレー食べたい。世界三大キンといえば」
「黴菌、プーシキン、菅井きん。ならば聞く、世界三大エルとは」
「蛙、OL、毛が生える、だ。世界三大ビルは」
「デビル、唇、毛がのびる、だ。世界三大ダンスといえば」
「髭ダンス、デカダンス、洋服箪笥。世界三大ロッピーは」
「フロッピー、けろっぴー、八面六臂」
「こんにちはあ。……あれ。何やってるんですか」
「やかましい。今忙しいんだ。世界三大バカとは」
「親馬鹿、亀甲墓、水中クンバカ」
「……もしかして」
「何だ」
「ものすごおく不毛なことしてるんでしょうか」
「何だとっ」
「何だとっ」
「いや。その」
「いいか。よく聞け。これは戦いなのだ」
「そうなのだ」
「……何の戦いなんですか」
「見て判らんもんは聞いてもわからん」
「別に知りたいわけじゃないから、いいんですけどね」
「ふんっ。もしかしたらお前、俺たちを馬鹿にしてるだろ」
「まあ、そんなとこです」
「何だとっ」
「何だとっ」
「だって。どう考えてもまっとうな社会人のやるこっちゃないでしょう」
「抛っといてくれ。まっとうな社会人ではないのだ」
「そうなのだ」
「まあ、そうでしょうけど」
「ふんっ。そんならお前も参加してみろ」
「いやですよ。阿呆みたいじゃないですか」
「つべこべ言うな」
「だって、それ、小学生が言う『エッチスケッチ乾電池』並みの遊びでしょ」
「こら。遊びではないのだ」
「そうなのだ」
「これは戦いなのだ」
「なのだ」
「ラッキー、クッキー、歯茎とか、そういうあれじゃないですか」
「全然違うのだ」
「のだ」
「そうかなあ」
「とにかくお前も参加するのだ。行くぞっ。世界三大ゲンといえば」
「やだなあ。……ええと、裸足のゲン、バーゲン、駄目人間」
「ふむ。なるほどな」
「もういいでしょ」
「何を言うか。次はお前が出題するのだ」
「するのだ」
「ええっ」
「じゃあ、じゃんけんで負けたものから時計廻りな」
「ええっ。無茶苦茶やな、この人たち」
「つべこべ言うな。さっさと出題するのだ」
「するのだ」
「……もう。じゃあ、世界三大シリ」
 そして戦いはその後三時間も続いた。
 続けるなよ。


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1999/07/22
文責:keith中村
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