第238回 ちょっとまずい


 それはちょっとまずいんじゃないかということが世の中にはあるもので、たとえば死者を嗤うというのは結構まずいこととされている。もちろん、生者を嗤うことだっていいことではなかろうが、しかしそれは死者を嗤うことに比較すればかなり容認されている部分がある。生きている者への誹謗を口にした際「侮辱」と表現される内容は、死者へのものならば「冒涜」と表されるだろう。冒涜。ううむ。JIS83でご覧のみなさま、しまりのない文字をお見せして申し訳ない。
 いかん。話が逸れた。
 冒涜というのはつまり聖なるものを穢すということで、すなわちここから判ることは死者は聖なるものと看做されていることであり、それゆえあえてその聖域へ踏み込むブラックユーモアの破壊力には並々ならぬものがあるのだ。
 さてそのように死者を嗤うのはちょっとまずいことであろうが、だがしかし誤解なきようにあらかじめ断っておくと、私が今から書こうとしていることはそれとはまた別のちょっとまずいことである。私が書くことはブラックユーモアでもなければ死者への冒涜でもない、純粋にちょっとまずいと思えることでなのであった。
 二十六日付のサンケイスポーツ、私がひくのはそれが転載されたYahoo!Japanからの孫引きではあるのだが、そこにちょっとまずいんじゃないかという記事があった。
「マリス・ミゼルのKamiさん急死」
 そういう見出しの記事である。いや、この見出しはべつだんまずくもない。
 私はこの記事ではじめて知ったのだが、どうやらマリス・ミゼルという楽団があったらしいのだ。記事によると究極のビジュアル系ロックバンドなのだそうだ。で、この記事はその楽団のカミという呼称を持つドラマーが蜘蛛膜下出血で急死したという訃報なのである。
「若者のカリスマが急死」
 記事はそうはじめられている。同種の表現はこれまでにも幾度か用いられたことがある。尾崎豊しかり、エックスのヒデしかり。さて私は尾崎某の名前は彼の生前から知っていたし、ヒデという人は訃報ではじめて知ったがエックスというのは知っていた。ところが今回は、このカミさんというカリスマも知らなければマリス・ミゼルというのも初耳だったのだ。どうやら私はそろそろ本当に「若者」ではなくなってしまったようだ。悲しい。
 記事にこういう部分がある。
「5月に急死したクラブ系姉妹ユニット、DOUBLEのSACHIKOさんに続いて、くも膜下出血で人気ミュージシャンが志し半ばで世を去った」
 ああ。私はそのダブルたらサチコさんたらいうのも知らないのだ。若者文化は私のあずかり知らぬところで花開いておりまする。それにしてもクラブ系姉妹ユニットというのは何だろう。世の中のミュージックシーンは今やそういうジャンル分けがなされるくらい細分化されておるのか。クラブ系姉妹ユニット。「ああら、部長さん、お久し振りん」とかそういうあれか。クラブ系姉妹ユニット。どこで区切るんだ、これ。
「Kamiさんは、茨城県出身。1メートル80を超える長身で中学、高校時代の6年間はテニス部で活躍、生前『趣味は、遊び、運動、散歩』と話しており健康には自信を持っていた。肉とメロンが好物で、よく食べ、よく飲み、よく笑い、病気には無縁だったはずだ」とその記事は伝えるのであった。
 さて、このあたりからちょっとまずいことが始まっているのだが、そのちょっとまずいことのちょっとしたまずさを書こうとすれば私の言うことはちょっとまずいふうに誤解されかねない。重ねて断っておくが私は死者に関してうんぬんというちょっとまずいことを書こうとするものではないのだ。明確にしておこう。私はそれとは違う「私がちょっとまずいと感ずること」を書こうとしている。そういうことだ。さて、言い訳めいた言い訳がましい言い訳が済んだので先を急ごう。
 お気づきの方もいらっしゃろうが、実は今引いたテキストには「ロックにはちょっとまずい」ことが幾つか含まれている。
 列挙してみよう。
「趣味は(中略)散歩」
「肉とメロンが好物」
「よく笑い」
「病気には無縁」
 もちろん、すべて素晴らしいことである。いっぱんには何ひとつ負の要素ではない。だが、ひとたび「ロック」という観点から見るとちょっとどんなものかということばかりになってしまうのである。本物のロックの人たちなら私の言うことを判ってくれるだろう。本物のロックの人は言うだろう。
「ロックなのにどうしてよりによってメロンが好物なんだよ」
 そのように、これらの要素はロックにはちょっとまずいのであった。そういえばメロンは麻原彰晃の好物でもあった。
 更に、私は言及しなかったが厳しいロックの人ならこれも負の要素に追加するだろう。
「茨城県出身」
 まあ、ここは微妙な線だ。それくらい許すという見方もありだろう。
 ところが記事の続きにはもっとまずいことが載っていた。「故人をよく知る人」の言だ。
「戦国時代が好きで武田信玄がお気に入り、蝶グッズや香水などにも凝っていた」
 これはちょっとどうだろう。「戦国時代が好き」というのもいかがかと思うが、「武田信玄がお気に入り」というのもこれでいいのだろうか。
「古代ギリシアが好きでプラトンがお気に入り」
「弥生時代が好きで卑弥呼がお気に入り」
「開拓時代が好きでコマンチ族がお気に入り」
「チーズが好きでジョセフィーヌがお気に入り」
 どいつもこいつもろくなものではない。
 だいたい「茨城県」「戦国時代が好き」というのは「ロックやってる」というよりは「雑文書いてます」という人物像じゃないか。例のあの人だ。ふうん、そうなんだ。
「戦国時代村が好きで、にゃんまげがお気に入り」
 これはこれでやはり別の雑文書きだよ。
 そんなことはどうでもよい。
 先にひいた引用では「蝶グッズ」というのもちょっと謎めいたものである。やはり「ぱぴよん」とか「女王様」とか例のアイマスクのあれか。
 それにしてもこのマリス・ミゼルなる楽団のことについて私には情報が少なすぎるので、ちょっとウェブで調べることにした。Yahoo!Japanで辿るといくつかファンのサイトが見つかったのだが、どうしたことかこういう紹介ばかりなのだ。
「マリス・ミゼルの最新情報とコスプレ」
 いくつかあるサイトのほとんどがそういうところなのだ。
 何だろう。何かしら。
 マリス・ミゼルはコスプレとの親和性がそんなに高いのか。謎は深まるばかりでございます。
 いくつか訪れてみたが、ページのイメージがなんというか中世魔道師ぽい。年配の人には「ツェッペリン4」のシンボルめいた魔術的イメージと言えばご理解いただけるか。って俺も古いよね。
 メンバー紹介のページがあった。それによって判ったのだが、この楽団は五人構成であるようだ。
 このKamiさんの紹介にはやはり「武田信玄が好き」とある。そんなに有名な事実なのか。Kamiさんの特徴は「サラサラヘアー」らしい。
 他のメンバーについても触れよう。
 ボーカルがGackt。ガクトと訓むようで、特徴は「低い美声」。ふうん。
 ギターその一、ko−ziさんは最近マックを購入したらしい。ふうん。
 ギターその二、Manaさんは「カレー大好き」。ばっ馬鹿。そんなこと大声で言うもんじゃありませんっ。「カレー好き」ならまだしも「カレー大好き」だなんて。きゃあっ。
 ベースはYu〜kiさん。特徴は「髭の伯爵」と書いてある。どういう特徴なんだ、それ。こうもある。「手と声が震える人。ぴくぴくしてる人。七色のキノコを探してる人」
 ようやくロックっぽい人が出てきた。手が顫える。ぴくぴくしている。うん、これこそロックだよ。それにキノコだと。マジック・マッシュルームとかそういうあれだな。
 それにko−ziさんとYu〜kiさんは、ローマ字と仮名の長音記号ない交ぜなのが投げやりでよろしい。
 だが、Yu〜kiさん。「〜」はちょっとまずいんじゃないかな。
 だって。ちょっとファンシ〜。


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1999/06/29
文責:keith中村
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