第237回 応援団


 世の中の人間を頭のいい悪いで分けるのは決して褒められたことではないだろうけれど、それでも敢えて人間を頭の出来不出来で大別した場合に、どうしても不出来側の籠に放り込まざるをえない種類の人間というのはおるわけであり、そして大学の応援団というのは残念ながらそちらに属してしまう人種ではないだろうか。
 応援団という団体あるいは応援団団員という個人を見て我々が抱く感想印象にはもちろんさまざまなものがあり、たとえば「威圧的である」「怖そう」などという負の要素を感じる人もあれば「凛凛しい」「恰好いい」という正の要素の印象を受ける人もいるだろうし、中には「右翼的だ」というイデオローグな観点での感想を持つ人もあろうが、やはり我々の多くは応援団という団体あるいは応援団団員という個人を見たときに次のような感想を抱くものではあるまいか。すなわち、
「なんか、ちょっと頭悪そう」
 ということである。
 むろんこんな感想を抱くにはそれなりの原因理由があるはずで、ではいったい何がそうさせているのかを考えるに、ひとつにはあの詰襟の学生服という要素は見逃せない。
 かつて学生服というのは大学生の着るものであったわけだが、今や学生服は中学生高校生の着衣となっており、学生服を着用した大学生はどこかしら不自然な印象を我々に与えるもので、ではその不自然さは何に起因するかといえばこれは彼らの顔ではなかろうか、というのも明治の世なら知らず現代では学生服の上に乗っているものとして我々が予想するのは中高生のまだ子供の輪郭をとどめた顔つきであるわけで、その先入観で見れば応援団員は学生服なのにやけに「おっさん顔」をしており、これが不自然さの原因であると考えるのだ。思うに、学生服と「おっさん顔」の不調和というのは人間が本能的に感ずる種類の違和感ではないか。我々が中学高校生だった時代、老けた顔をした同級生には必ず「おとうさん」「おやじ」「おっさん」「おっちゃん」などという仇名をつけてからかっていたのも、その不調和からくる恐怖心を笑いに昇華して希釈するための精神的な補償作用であったのだろう。
 さて、応援団団員が決定的に中学高校生と違うところは次の点である。
「応援団団員は夏でも上着を着用している」
 通常学生服は衣更えの時期になると上着を脱ぎ、上半身はカッターシャツで過ごすのが正統な着こなしということになっており、しかし応援団団員はこれをしない。詰襟のあの上着は面堂終太郎、自決前の三島由紀夫などの例外を除いて黒色をしており、太陽光をすべて吸収する仕様となっておるわけだから、どう考えてもかなり暑いはずだ。おそらくはデパート屋上の仮面ライダーや浦安の鼠くらい暑いに違いない。だが、応援団団員はその暑いなりでうろうろしている。これを見るにつけ我々は思う。
「自律神経失調してんじゃないのか」
 だいたい、暑さ寒さをはじめ痛痒その他の感覚について鈍い人間は馬鹿に見える。応援団団員が頭悪そうにみえる原因のひとつはここにあるとみた。
 二つめの要素は「太鼓」である。応援団団員はやたらと太鼓を叩くのである。母校のチームが負けそうだといっては「どんどこどん、どんどこどん」と叩き、母校のチームが勝ちそうだといっては「どんどんどんからかった、どんどんどんからかった」と叩く。太鼓は彼らの感情表現の手段なのである。あるいは扇を振りながら舞う。太鼓、そして踊りだ。我々がそれらから連想するものはひとつ。
「どっかの原住民みたい」
 もちろん、これは我々に非があるのだろう。太鼓と踊りから原住民というステレオタイプな連想もさることながら、原住民イコール頭悪そうというのは謂れなき不当な差別感情ではある。それをわかっていながらも我々はつい思ってしまうのだ。
「結構馬鹿っぽい」
 だが、なんといっても応援団を頭悪そうに見せる要因でいちばん大きいのは彼らの言葉遣いであろう。よく知られているように応援団団員は「押忍」という言葉をさかんに使う。
「おす」
 場合によっては、
「うす」
 という発音になることも多い。
 それ以外にも彼らは矢鱈と「す」を使う。
「これは自分の責任っす」
 この語尾は「です」から「D」の音が欠落し、促音に変化したものであるのだろうけれど、中にはこんな用法もある。
「これは自分がやるっす」
 音便をおこす前の形は「やるです」ということになり、かなり舌足らずな言い回しである。この舌足らずが頭悪そうに思える原因の最たるものであろう。
「うす。ばりばり応援するっす」
「団長はほんものの男っす」
「メシ喰いにいくっす」
「カレーうまいっす」
「これは椅子っす」
「あれは酢っす」
「彼の名前はスミスっす」
「すすすー」
「すっすっすー」
 何だかよくわからないがそういう喋り方をするのだ。
 ところで、考えてみれば応援団というのは体育会系でもなければ文化系でもない実に奇妙な団体である。
 応援団は孤独だ。応援団を応援する団体はない。
 応援団はいったい誰に応援してもらえばよいのだろう。
 メタ応援団か。 


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1999/06/28
文責:keith中村
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