第22回 に


 新聞というものをとっていない。しかも最近とんとテレビを見なくなったので、世間の出来事にほんとうに疎くなってしまった。
 現在、私のニュースソースは二つだけである。
 ひとつは勤務先の所属長であるところの西田氏。彼は何故か芸能界にやたら詳しい。ダイアナ妃の訃報も、安室の結婚も彼から聞いて知った。
「ダイアナ妃死んだの、知ってるか」
「あの英国王室のダイアナですか」
「そうや。パパラッチや、パパラッチ」
「はあ。何ですか」インディアンの風習か。それはポトラッチ。
「パパラッチに追いかけられたんや」
「パパラッチて何ですか」
「そんなことも知らんのか。うるさい蝿ちうこっちゃ」
「蝿ですか」
「それで、追悼の歌を歌いよったんや」
「誰がですか」
「誰やと思う」
「ええと」そんなことをする人間はひとりしか思い付かない。「ポール・マッカートニー」
「ああ。惜しいなあ。惜しい」
「では」惜しいということは。「エルトン・ジョン」
「おお。流石やな。正解や」
 何だか要領を得ないのであるが、とにかく「ダイアナ妃が死んで、原因は蝿で、エルトン・ジョンが歌った」ということはわかったのである。それにしても二回目でエルトン・ジョンと当ててしまった自分が悲しい。
「アムロ、結婚するんやで」
「ははあ。アムロというとアムラーとかいうやつですか」といいながら「アムロ」の顔は知らない。
「そのアムロや。相手はな」
「はあ」
「サムや」
「誰です」
「サムや」
「何です」
「サムや」
「外人ですか」
「いいや。日本人や。しかもサムや」
「日本人なのにサムですか」
「日本人なのにサムなんや」
「何者ですか」
「ティーアールエフで踊ってるサムや」
「ああ。ティーアールエフってどっかできいた名前ですわ」
「アムロと結婚や。十五歳も離れてるんや。あかんやろ、サム」
 あかんやろ、と、いわれてもアムロもサムもよくわからんので困ってしまうのである。しかし、確か西田氏の奥方は西田氏より十歳年下であった筈だ。十歳はよくって、十五歳は「あかん」のだそうだ。
 そういえば「たまごっち」が流行るよりも前に「たまごっち、て知ってるか」「なんですか。たまご、ですか」「たまご、ちゃうねん。たまごっち、や」「知りません」「そうか」「なんですか、それ」「たまごっちなんや。とにかくそうやねん」などという会話をしたこともある。これで「たまごっちというものがあるのだなあ」ということがわかった。
 このように、大変漠然とした情報ではあるが、西田氏はいろいろなことを教えてくれるのだった。私の貴重なニュースソースである。
 もうひとつの情報源はインターネットであるが、これとて有用な情報はない。いや、私が有用な情報にアクセスしないだけなのである。いちばん利用しているのが情けないことに、Yahoo! Japanの Yahoo News、しかもエンターテインメントの欄である。
 ここには「ちょっとこれでいいのか」と思うような無駄な情報が集まっている。

「スウェーデンで第3回ギター弾き真似コンテスト開催」
 ギターのコンテストではないのだ。あくまでギターの弾き真似コンテストなのだそうだ。何だろう。「5番。ジミヘンがチョーキングしたときの顔の歪みをやります」てなことなのか。しかも第3回だ。つまり過去二年間にもおよんでギターの弾き真似などという無駄なコンテストを開催しておるわけだ。どういうことだ、スウェーデンの人びと。無駄だ。しかも、それを報道するのはもっと無駄だ、まったく。とても見たいじゃないか。

「ガッツ石松、『昔だったら切腹』と発言」
 これはガッツが選挙に落選したときの見出しである。私の周囲ではこれをきっかけに「ガッツだったら切腹」というのが流行った。

「オアシス、『パパラッチはムカつく』」
 まるっきりビートルズなので私も気に入っている英国のバンド「オアシス」がダイアナ妃の件で発言したのだそうだ。しかし「ムカつく」はちょっとこれでいいのかと思う。ちなみにこの記事で私にもパパラッチが何であるかがようやくわかった。

 先日も、「市原悦子、気分はラテン系に」という見出しを発見した。
 これだけ衝撃的な一文はちょっと見当たらない。ほとんど自由律俳句の域である。「気分はラテン系」ではないのだ。「ラテン系に」。「に」のところにえも言えぬ深みを感じる。市原悦子が例の声で「ほほほほほほほほ」などと哄笑しながら踊りまくっている悪夢のようなイメージが躍動感を伴って喚起される。そんなもの喚起してほしくない。これほど効果的な「に」はそうそうあるものではない。
 まったく、大スポじゃないんだから(関東方面の人は「東スポ」に読み替えるように)。
 さて、この記事は一週間ほど前に見かけたものなのだが、その後すっかり忘れていた。

 仕事場で出納関係を司る浦島さん(推定四十二歳)、やや天然ボケな女子の人である。今日のことである。「海外へ行くならどこがよいか」などと他愛もない話をしていたのだが、不意に浦島さんがのたもうた。
「アマゾンもいいですね」
「へ。アマゾンですか」私はちょっと唐突な地名に驚いた。
「ええ。昨日テレビで見たんですけど、市原悦子さんがレポーターやっててね。とってもよかったんですよ」
 脳裡にフラッシュバックするは「市原悦子、ラテン系に」。
「あの。浦島さん、浦島さん」
「はい」
「ええと、市原悦子はどうでした。つまり、その、ラテン系になってましたか」
「ええ」彼女は笑顔で答えた。「なってましたよ、ラテン系に」
 やはりなっていたのだそうだ。ラテン系「に」。どういうことだ。


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1997/11/16
文責:keith中村
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