第213回 ライナー・ノーツ


 一九八〇年の全米ツアーを最後に突如活動を停止してしまったバッド・クラスターズ。一九六〇年代から二十年近くにわたってロックの一線を走りつづけていた彼らに突然持ち上がったこの事態に僕たちは大いに嘆き悲しんだものだ。依然活動を停止したままの彼らであるが、ここに至って朗報があった。昨年十月ロンドン、アビイロードスタジオの倉庫から偶然彼らの未発表テイクが発見されたのだ。そう。あなたが今手に取られているこのアルバムこそが、その未発表曲を含むバッド・クラスターズのベストアルバム「なやみごと」(原題:Trouble of Mind)なのである。さあ。僕たちの青春が今ここに帰ってきた。いつまでも、キーポン・ロッキンだっ。

●恋の補欠選手(Love Vacancy)
 一九六四年三月四日に発売された記念すべき彼らのファーストシングル。まだまだ演奏は未熟であるが、だからこそ粗削りな魅力に溢れている。なお、二番の四小節目以降ボビーのギターの音が入っていないのはエキサイトし過ぎたボビーが弦を切ってしまったため。録り直しをせずにリリースしてしまう鷹揚さも彼らの魅力のひとつである。

●恋するテンタクルズ(Tentacles Of Love)
 バッド・クラスターズ五曲目にして、初の全英ナンバーワン・シングル。一九六四年十一月十八日発売と同時にヒットチャートにランクインし、同月二十九日から三週間一位を守った。曲の最後で聴かれるピートの甘く切ない "Oh! Oh!" という叫びがティーンのハートをがっちり掴んだのだが、一九七八年のミュージックボックス誌インタビューによると「あれは悪戯好きのボビーがいきなり俺の背中に毛虫を抛りこんだからさ」ということらしい。お茶目なボビーらしい逸話である。

●茶色の小皿(A Little Brown Dish)
 一九六八年七月、導師ターミオ・ヴェーダの思想に打たれたメンバー四人は突然インドへ旅立った。導師ターミオのもとで半年を過した彼らの音楽は次第に思索的な内容に変化してゆく。しかしインドで彼らが導師ターミオ以上に影響を受けたのがカレーであった。この曲は初めて本場のカレーを食べたときの驚きをイメージして書かれた。ギター、シタールとユニゾンでピートが歌う「チリッチリッチリッチリッ、ほひー」というサビが印象的。いかにも辛そうである。一九六九年二月十四日発売。

●悲しみのガンジー(Gandhi)
 一九六九年三月十四日発売のしっとりとしたラブ・バラード。作詞作曲はベースのジャック、そしてピアノも彼が担当している。コードがたったひとつAmしかでてこない不思議な印象を持った曲である。一九七八年のミュージックボックス誌インタビューに「あれはピアノを覚えたばっかりで、それしか押さえ方を知らなかったからさ」とジャックは答えている。

●今夜はサタデーナイト(Thanks Load, It's Just A Saturday Night)
 一九七一年八月から九月まで七週間一位を保った大ヒット曲。ここに収録したのは日本公演のライブ盤「The Bad Clusters In Japan」からのテイク。イントロでピートの日本語によるシャウトが聞ける。「ミンナハマンコシテマスカァ」というのは恐らく「愛しあってるかい」という意味だろうと思われる。

●マリファナ姐さん(Sister Joint)
 あまりに過激な歌詞でBBCにて放送禁止処分を受けたハードロックナンバー。ドラッグにのめり込んだメンバーの実体験を歌にしたもの。曲の最後でドラムのリッキーが演奏をやめ、「寒いさむい」と呟く声が真に迫っている。一九七八年のインタビューでリッキーが「いやあ、しっかりキメてスタジオに入ったんだけど、途中で切れてしまってさ。あんときゃ、ほんと死ぬかと思ったよ」と答え物議をかもした。一九七三年一月三十日発売。

●男が女を愛する時(When A Man Fucks A Woman)
 スペシャルゲストにエリック・プランクトンを迎えた曲。ボビーとエリックのギターが半音ずれてチューニングされている。のちにエリックが語ったところによると「俺がボビーにチューニングを直せと言ったんだけど、やつはすっかりラリっててちっとも聞かねで、うつろな眼でへらへら笑ってやがるんだ。もう金輪際バッド・クラスターズとはやらない」。一九七五年六月六日発売。

●僕とボビーと法廷で(Me And Bobbie Down In The Court)
 一九七六年十二月、バッド・クラスターズはそれまで契約していたAMIレコードからメイデンに移籍する。AMIレコード側ではこれを契約違反としてバッド・クラスターズを告訴。この曲はそのときの模様を歌ったものである。効果音として入っいる「コンコン」という槌は、ビートルズが「マックスウェルズ・シルバー・ハンマー」で使ったものを借りて使用。ちなみにこの槌はオークションにかかった結果、現在は八〇万ドルで落札したマイケル・ジャクソンが所有している。一九七七年九月一日発売。

●バッド・エモーション(Bad Emotions)
一九八〇年夏におこなわれた全米ツアーのライブ盤「The Bad Clusters Go Worse」からの収録。間奏で突然興奮したボビーがギターをピートに投げ付け、殴り合いの喧嘩になった一部始終が納められている。途中からはリックとジャックも入りもう何が何だかわからないことになっている。終わりの方で聞える「ぼむ」というノイズはマーシャルのアンプが火を吹いた音。メンバーはこの時決裂し、ツアーもこの時点で終了となってしまった。

●なやみごと(Trouble In Mind)
 アビイロード・スタジオから発見された幻の未発表曲。収録時期は一九八〇年の全米ツアー直前と見られる。曲詞ともにボビー。「ピンクの象が見える。小さな虫が体を這いあがる。メンバーが俺の悪口を言ってるんだ」という歌詞からはドラッグ中毒の凄絶さが垣間見える。「いつか奴らにギターを投げ付けてやる」と繰り返すサビが非常に印象的である。

 こうして一気に駆け抜けた彼らの時代をふり返ってみると、僕の熱い血が再びたぎる思いがする。
 現在のメンバーの消息は以下の通りである。
 ボビーはフロリダの病院で麻薬中毒の療養中。ジャックは五人目の妻として迎えた十八歳のモデルとの離婚問題で訴訟中。ピートは経営していたブティックが倒産、現在は借金返済に追われている。リックは西海岸でお好み焼き屋を経営。
 しかし、と僕は思うのだ。バッド・クラスターズは決して正式に解散したわけではない。いつの日か再び彼らが集結し、あの素晴らしい青春の日々を再現してくれることを切に願うのだ。さあ、みんなでいつまでもキーポン・ロッキンだっ。


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1999/04/04
文責:keith中村
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