第202回 アグア・ジ・ベベール


「ねえ、あなた」
「うん」
「買って欲しいものがあるの」
「なんだい」
「このパンフレットなんだけど」
「ん。なになに。サイ・ウォーター製造機だって」
「そうなの」
「ようするに浄水器か。げっ。なんだ、この無茶な価格設定は」
「ちょっと高価いんだけど」
「ちょっと、なんてもんじゃありません。浄水器が欲しいならもっと安いやつもあるだろ」
「あのね。サイ・ウォーターはただの浄水じゃないの」
「どういうことだ」
「パンフレットにあるでしょ。サイ・ウォーターは非イオン化水っていって、イオン化しにくいから腐敗しないんだって」
「水道水だって普通に使ってる限りまず腐敗せんぞ」
「それにアルカリ性だから身体にいいんだって」
「ちょっと待て。アルカリは身体にいいのか」
「そうでしょ。アルカリはよくって酸は悪いのよ」
「アルカリも酸も身体に悪いんじゃないのか。水酸化ナトリウム水溶液の一気飲みと塩酸の一気飲みはどっちもものすごいことになるぞ」
「何言ってんの。アルカリ性は身体にいいに決ってるでしょ」
「ううむ。あのなあ。それ以前にこれは非イオン化水なんだろ。どうしてそれがアルカリなんだよ」
「難しいことは知らないわよ。それだけじゃないわよ。ここに書いてあるでしょ。サイ・ウォーターの水分子は普通の水より小さく砕かれてるから吸収が早いの」
「あのなあ。分子って、それ以上砕けないから分子なんだろうが。それより小さくしたら酸素と水素になっちゃうでしょうが」
「難しいことは知らないわよ。あたし文学部だったんだから」
「中学生レベルの話だぞ」
「んまっ。馬鹿にするのね」
「いやいやいやいや。そうじゃない。そうじゃありませんっ」
「ほらほら。ここの写真を見てよ」
「なんだ。水槽じゃないか」
「中の魚をご覧なさいよ。何だと思う」
「ええと。こっちが金魚でこっちが河豚かな」
「ね」
「……」
「ね」
「……。ね、って何だよ」
「凄いと思わない」
「どういうことだ」
「んもう。いいこと。金魚は淡水魚で河豚は海水魚でしょ。それが一緒に泳いでるのよ。これこそサイ・ウォーターの驚異なのよ」
「お隣りの山田さんとこは猫のミケと犬のポチが仲良くしてるぞ。そっちのほうが凄くないかなあ」
「また馬鹿にしてるのね」
「いやいやいや。違うったら。そういう恐い眼でにらむのはよしなさい」
「何よっ。わたしの顔に文句があるっての」
「いやいやいや。ない。ないったらないっ」
「まあいいわ。最後のところ読んでみるわね。『サイ・ウォーターはビッグバンのときの水なのです。地球ができたときにあったのもサイ・ウォーターだと言われています。だからその頃の生物は植物も動物も非常に大きく育ちました。その頃は細菌もいなかったのです。太古の人類はサイ・ウォーターを飲んでいたため寿命が二百年もありました。驚異の生命の源、サイ・ウォーターをぜひあなたのご家庭にもどうぞ』どう。素晴らしいでしょ」
「なるほどなあ。細菌は最近までいなかった、とかそういうあれだな」
「ぎろり」
「ビッグバンから太古の人類まではかなりの時間だと思うけどなあ。十把ひとからげなんだなあ。いかがなものかなあ」
「ぎろり」
「胡散臭いなあ」
「ああなあたあ」
「わあっ。なっ、なんだ。こら。おい。その爪は。うわっ」
「ききい」
「あぐあ」


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1999/02/22
文責:keith中村
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