第189回 不在の日


 困ったなあ。弱ったなあ。参ったなあ。
 ああ。どうしようかなあ。いきなりそんなこと言われてもなあ。どこ行ってしまったのかなあ。立ち小便をして警察に拘留されているなんて噂もあるけど、奴ならやりかねないしなあ。本当にそうだったらどうしようかなあ。なにしろ三十にもなって実にいい加減な人間だからなあ。
 でも、だからと言ってこっちに話持ってこられても困るなあ。こんなの、したことないしなあ。今さら愚痴言ってもはじまらないのかなあ。仕方がないなあ。とりあえず書いてみようかなあ。
 まあ、奴の書き方なりパターンなりはだいたい解っているから、だいたいその流れをたどったらそれらしくなるかな。じっさい奴の文章はほんとにいい加減だなあ。そう。まったくその通り。どうでもいいようなつまらないことを殊更大きくとりあげてわあわあ騒いでるんだから。書き出しはこんな具合かな。

 近ごろマウスパッドがとんでもないことになっている。

 うん。雰囲気出ているな。下らないことを騒ぎ立てて世間の目を引こうっていう、奴のさもしさが現れているし。
 よし、この調子でいこう。

 マウスパッドといってもご存じでない方もあろうから説明しておく。国連貿易開発会議のことだ。いやいやそれはアンクタッドである。アラビアンナイトに出てくる船乗りのことだ。いや、それはシンドバッドだ。ほんとはつまりあれだ。コンピュータのマウスを操るときの下敷きのことである。

 よしよし。いい感じだ。「ご存じでない方」なんているわけないのにさ。わざわざしなくてもいい説明なんかするんだよね。まったく人を馬鹿にしてる。それにつまらない駄洒落なんかが好きでさ。マウスパッドとシンドバッドなんて小さい「つ」しか合ってないじゃないか。駄洒落か、これ。それ以下だよ。こんなの本気で面白いと思って書いているのかなあ。面白がっているのは本人だけなんじゃないかなあ。馬鹿みたいだなあ。馬鹿だなあ。でも、今回は自分がその馬鹿になりきらなきゃならないんだなあ。ええい。仕方がない。馬鹿になって書いてやれ。

 先日、とあるOA機器販売店の総合カタログを見る機会があり、ページをぺらぺらとめくっておったのであるが、そこに数ページに及んでマウスパッドの欄があったのだ。マウスパッドが今や、観光地の土産物や、商店の粗品になるまでに普及しているのは知っていたが、それにしてもこれほどまでに形状や意匠の異なるさまざまなものが存在するとは知らなかったので驚いた。いくつか挙げてみよう。

 いいぞ。奴は列挙するのが大好きだから、きっとこんな風にするな。

「トムとジェリー」のマウスパッド。
「ミッキーマウス」のマウスパッド。
「ルパン三世」のマウスパッド。
「エヴァンゲリオン」のマウスパッド。
 ゴッホの「ひまわり」のマウスパッド。
 相田みつをのマウスパッド。
 パームレスト付きのマウスパッド。
 高級本革のマウスパッド。
 大理石のマウスパッド。
 抗菌仕様のマウスパッド。
 カタログには写真とともに、商品紹介の惹句というかキャプションというか、そういうあれが掲載されておったのであるが、「あしたのジョー」のマウスパッドには、こう書いてある。
「あしたのために。このマウスパッドでトレーニング」
 コカコーラのマウスパッドにはこうだ。
「スカッとさわやかなマウスパッド」

 文章が下手くそなんで、うまく表現できないところは「あれである」とか書いて胡麻化すんだよなあ。それにしても、どんなマウスパッドがあってもいいんじゃないのかなあ。そんなことわあわあ書いて何になるっていうんだろう。まったく呆れた奴だよなあ。
 まあ、いいや。続きを書こう。
 ここで、例のやつだよな。

 かなりなことになっている。

 ああ。阿呆らしい。なにが「かなりなこと」なんだかなあ。こう書けば受けると思っているんだよなあ。そんなわけないのになあ。誰か、面白くないぞって言ってやらなきゃなあ。それにしても、あの馬鹿になりきるのって疲れるなあ。

 カタログには「アンパンマン」に登場する「バイキンマン」のマウスパッドもあったのだが、それにはこんな紹介がつけられている。
「バイキンマンの顔をそのままマウスパッドにしました」
 確かに写真で見ると、バイキンマンの頭から二本にょっきりと角だかアンテナだかが生えている。どういうことだ。そんなものあったら邪魔じゃないか。狭い机の上には置けないじゃないか。無理やり置いたら角がぐにゃあと曲って格好悪いバイキンマンになってしまうではないか。どういうことだ。
 しかも、もしこのマウスパッドが抗菌仕様だったらどういうことになるか。
「バイキンマンの抗菌マウスパッド」
 何だそれは。不潔なんだか清潔なんだかさっぱり判らないではないか。責任者でてこい。

 このあたりから話が狂いはじめるんだよな。それにしてもまったく、誰に対して怒ってるんだか。しかも「もし」「だったら」なんて仮定の話じゃないか。自分で勝手に想像して勝手に怒ってるんだから世話ないなあ。恥ずかしい人間だなあ。駄目な人間だなあ。

 この分なら次のようなマウスパッドが出てくるのもそう遠い話ではないように思える。
 変なにおいのするマウスパッド。
 父親の厳しい愛情のマウスパッド。
 食べられるマウスパッド。
 こすると火が出るマウスパッド。
 マイコン内蔵マウスパッド。
 シャア専用マウスパッド。
 512KBセカンドキャッシュ搭載マウスパッド。
 一九五四年ヴィンテージ・マウスパッド。
 タウリン1000ミリグラム配合マウスパッド。
 オギノ式マウスパッド。
 味噌煮込みマウスパッド。
 六甲のおいしいマウスパッド。
 十二弦アコースティック・マウスパッド。
 レンジで二分のマウスパッド。
 由美かおるのサイン入りマウスパッド。

 もう、こうなってくると想像なんて生易しいものではなく、妄想と呼んでも差し支えないのじゃないかなあ。「味噌煮込みマウスパッド」って何だよ。意味がないじゃないか。思いつきだけで書いてるんだよなあ。ひどい奴だなあ。駄目な奴だなあ。駄目な三十男だなあ。こうはなりたくないなあ。
 それに、これだけ話を勝手な方向に持っていきながら、どうやって終わるかっていうとどうせいつもの奴だしなあ。
 やってみようっと。

 ううむ。恐るべし、マウスパッド。

 こんなのもあるな。

 マウスパッド。それは社会の暗黒面である。

 なんだかなあ。それで、まとめたつもりでいるのかなあ。本人の自己満足じゃないのかなあ。こんなことでいいのかなあ。世の中を舐めているんじゃないかなあ。もっとちゃんとした方がいいように思うなあ。もっと人肌のぬくもりのある文章ってやつを書けないのかなあ。もっと地に足がついた文章が書けないのかなあ。
 とりあえず一応の義理は果たしたけど、どうせまた次から奴がいつものように書き散らすんだろうなあ。
 いいのかなあ。


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1998/12/28
文責:keith中村
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