第178回 ザ・心理ゲーム


 人は擬似科学を好む。
 距離の置き方は人それぞれであるが、それらさまざまな距離感のもと、人は擬似科学を好む。
 太陽は実は冷たかった、だの、古代文明は宇宙人が作った、だの、植物さんがイエースと言う、だのという話を人はどうしようもなく好むのだ。
 中でも多くの人にとって抗えない魅力を持つ擬似科学は「性格」にまつわるものである。
 たとえば血液型による性格判断というものにはすでに多くの反駁や疑問が呈せられているが、それでも考えてみればA型は生真面目B型はいい加減AB型は気まぐれ大型はでかい葉巻型は母船、という大別を知らない人はほとんどいないのではなかろうか。
 星座による性格判断や占いも然りである。
 それらの一派に似而非心理学がある。
「あなたが森を歩いていると小屋がありました。あなたは小屋に入りました。テーブルがあり、その上にコップがあります。さて、コップに水はどれくらい入っていますか」
 こういう質問を投げかけては、回答によって「あなたはこれこれこういう性格だ」などと決め付けてかかる。
「実はコップの水はあなたの性欲の多さを表していまーす」
 などということを言ったりする。
「からっぽと答えたあなたは性欲ゼロの真面目人間でーす」
「五分目と答えたあなたは中くらいの性欲でーす」
「いっぱいと答えたあなたはえろおやじどぇーす」
 何だそれは。
 そんな簡単なことでいいのか。心理学というのは、もっとあれではないのだろうか。
 そもそも「コップから、だぼだぼーと水が溢れている」と答えた私はどうすればいいのだ。やはりえっち大魔王だということか。納得がゆかぬ。ゆきませんっ。
 さて。さきごろ、あやういところで森高ファイルを手に入れて何とか勝ちにもちこんだ、私と保険の人との戦いであるが、いまやその第二幕の火蓋が切って落されようとしている。
「こんにちは」
 例の保険の人である。
「こんちは」
「今、お時間よろしいでしょうか」
 口調は疑問形だが、そこには「よろしいでしょうね」という断定の響きが含まれている。私はコンピュータに向って腕組みをしながら目をつぶっていたのだが、どうやら保険の人は私がさぼっていねむりをしていると考えたらしい。これまでは確かに忙しそうだったけど、今日はお前いねむりしてるもんね、それで忙しいとは言わせないもんね、という勝ち誇った口調である。
「いや、こう見えてこれでなかなか忙しいのです」
 私はそう答えた。保険の人の癖に観察眼がない。私の姿はどう見ても、考えをまとめるために頭を必死に働かせている、の図ではないか。これが、いねむりに見えるだと。
 せっかく、必死に考えているふりをしていねむりしているのに、どういうことだ。
「はあ。そう見えてそれでなかなか忙しいのですか」
 相変わらず苛々させる人である。
「そうです。なかなか忙しいのです」
「そうですか。なかなか忙しいんですね。……ところで」
 結局話を持ち出すのではないか。何のために忙しいかどうか確認するんだよ。
「ところで、今日は資料をお持ちしました」
「あの。もしもし。今、忙しいと申し上げたはずなのですが」
「はい。ご苦労様です」
 別にねぎらってほしいわけではない。
「ですから、お話をうかがう時間をとれそうにありません。申し訳ないことですが」
「そうですか。……ところでこの資料は」
 ええい。人の話を聞く気があるのか、貴様は。
「あの、ですね。ですから、資料はその辺においといてください。また見ますから。ね。ね」
「そうですか。……わかりました。じゃ、ここに置いておきますのでよろしくお願いいたします」
「はいはい」
「それから、飴ちゃんあげます」
 とほほ。また飴ちゃんを手渡されてしまった。おつかいに行った子供か、私は。
 かくして保険の人は去っていった。
 保険の人が置いていった資料とやらにちら、と目をやると、「ザ・心理ゲーム」というの文字が見えた。保険の人は、馴染んでもらうためか、自分で手書きしたものを複写して配ったりするが、そういうあれのようだ。
 見なくてもよいのに、何となく目を通してしまう。なるほど、これが手書きの効用か。内容はありがちな似而非心理試験であるようだ。

【設問】
 忘れられた誕生日。
 なのに恋人はすっかり忘れてるみたい。
 いちばん祝ってくれたい人なのに……。くすん。
 そんなときアナタなら?! ドースル?!

 妙な人であるなあ、と思っていたが、やはり妙な人である。最初の二行がさっそく難解である。何を書いているのかよくわからない。
「祝ってくれたい」もどうかしているが、「ドースル?!」もこれでいいのだろうかと思う。保険の人の国語はどういう仕組みになっているのだろう。

【選択】
 A:別に怒らない
 B:悲しくなって泣く
 C:許せない!! 怒る
 D:相手の誕生日に仕返しする

 という選択肢がついており、その下にコメントがある。

 世界中の何よりも自分の気持ちを大切にしてくれたい……。
 ちょっぴりしたそんな気持ちを誰でもたくさん持っています。
 自分のイベントや思い出をどれだけ重んじるかは嫉妬深さ、嫉妬のタイプなのです。

 かなりなことになっている文章である。もはや、何がいいたいのかさっぱりわからない。
 すぐ下に回答があった。どういう回答を導くつもりなのだろうか。

【回答】
 A:穏やかな人
 B:泣き虫の人
 C:怒りんぼの人
 D:報復する人
 さあて、あなたはどうでしたか。

 私は声に出して叫ばずにはいられなかった。
「そのまんまやがなっ」


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1998/11/12
文責:keith中村
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