第17回 罰ゲーム


 知り合いから聞いた話。
 深夜訪れたコンビニエンスストアから出て自動車に乗り込もうとした途端、ぐい、と肩を引っ張られた。見ると、ジーパンにコートを羽織った男が何やら黒い手帳を示している。「警察のものだ。借りるよっ」男は知人の車に乗り込んだ。呆気にとられているうちに男は急発進し、数十メートル走ったところで車を降りて、猛スピードでどこへともなく逃げ去った。乗り捨てられた自動車に戻りながら、眼前で起こったことを反芻していた知人の脳裡に天啓の如く、この出来事への意味付けが去来した。
「そうか。きっと罰ゲームだったんだ」

 世の中には二種類の人間しかいない。罰ゲームをする人間と罰ゲームをしない人間だ。しない人間には私がここまで書いてきたことがさっぱり理解できぬと思うので野暮ったいのを承知で説明する。
 世間にはさまざまな遊戯が存在する。トランプ、モノポリー、ダイヤモンドゲーム、人生ゲーム、人生ゲーム平成版、尻取り、古今東西などなど。私には絶対許すことができないマジカルバナナなどという腑抜けたゲームもある。私の調査によるとこれらのゲームを行うとき、人が賭けるものは

金銭 (61%)
しっぺ (18%)
罰ゲーム (14%)
初夜権 (2%)
その他 (5%)
〔平成6年度調査〕

 となっている。
 つまり全国の十四パーセントの人間はゲームにおいて「罰ゲーム」を賭けるのである。ちなみに学生のみを対象にした調査では罰ゲームの割合は三十一パーセントと俄然高くなる。
 然るに罰ゲームとは何か。
 道行く人に百円を恵んでもらう。
 道行く人に求婚する。
 夜中に陰茎丸出しで自動販売機まで飲み物を買いに行く。
 怖い先輩や上司の家に「突撃お邪魔クイズです。問題に正解すると一万円をプレゼント。さて、あなたはトランクス派、それともポルポト派」と電話する。
 藤山寛美の物真似で警察に電話する。
 深夜のローソンに行って踊る。
 深夜のローソンに行って「お。お。お。お。お。お。う。うちのポチ知らんか。う。う。う。うちのポチや。ぽ。ぽ。ぽ。ポチ。ポチがおらんようになったんじゃあ。ぽ。ぽ。ポチなんじゃ。し。し。し。知らんのか、ポチ。ポチなんじゃ。お。お。お。お。おおおおお。うちの可愛いポチがおらんのんじゃ。あ。あ。あ。あんなに可愛いトガリネズミはどこ探してもおらんぞ。ほんまじゃ。うおおおおおん。ポチよお」と店員に言って逃げる。
 これらが罰ゲームである。犯罪すれすれのものから、どう見ても犯罪のものまである。「深夜」が多いのは、これら罰ゲームの人種が主に夜行性であることに起因しているようだ。
 女子の人には解らぬだろう。女子の人は、「じゃあ、これまでで自分がした中でいっちばあん恥ずかしい失敗談をしましょうよ」とか「それじゃあね。負けた人は自分の好きな人の名前をー、みいんなに公開するのっ」などという他愛ない罰ゲームで盛り上がることができるのだ。男どもとて、場に女子の人がいる場合には鼻の下を延ばしながらこういった頭が馬鹿になりそうな罰ゲームに調子をあわせもするが、周囲に女子の人がいないとなれば、その様相は熾烈を極める。下ネタへあるいは危険な方向へと走り、その結果が例に挙げたようなものになるのだ。
 と、これが罰ゲームの実態なのであるが、やがては主客が顛倒、尻取りやら古今東西などはどうでもよくなり、罰ゲームが目的の、罰ゲームの為の罰ゲーム、純粋罰ゲームへと進展するのである。すなわち、まず罰ゲームありき、罰ゲームの考案発案から始まって、勝敗の決定は「じゃんけんで負けたものがする」などという安易なものになる。
 最初に挙げた挿話では、私の知り合いが罰ゲームをするほうの人種だったので、件の椿事が理解できたのである。
 罰ゲームをしない人種よ。馬鹿にするなかれ。罰ゲームとは日常という褻の空間に突如生じた霽れの亀裂、麗しの祝祭空間、お蔭参りはえじゃないか、俄じゃ俄じゃ、踊狂じゃ、おお我こそはポスト・ポストモダン、カーニバルだよ全員集合、再生と復活、折口信夫、秩序と混沌、フラクタル、マンデルブロートなのである。と書いてみたが何が言いたいのか自分でもさっぱり解らん。


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1997/11/08
文責:keith中村
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