第169回 それだけは言わんとってくれ


 不幸の手紙というものをご存じでない方はいないことだろう。無差別に「この手紙と同じ文章の手紙を十人に出さないと不幸になる」という内容の手紙を送り付ける悪質な悪戯である。あたかもそれはウィルスのようなものだ。人から人を通じてどんどん増殖してゆくのだ。途中で絶えてしまうことがあるのもウィルスに似ている。ウィルスはまた、突然変異を起こし、まったく新種のものに変わってしまうこともあるのだが、不幸の手紙もこれに酷似している。
 ご存じの方も多いだろうが、しばらく前に「棒の手紙」というものがあった。もとは昔からよくある不幸の手紙であったらしいのだが、広がっていく途中に大変字の汚い奴がいたのだ。
「これは不幸の手紙です」
 字の汚い彼(字の汚い奴は男に決まっている)はこう書いたつもりだったのだが、受け取った人間にはそれが、
「これは木奉の手紙です」
 と読めた。
 受け取った人間は判断に苦しんだことだろう。はてな、「木奉」とは何だ。木を奉るということか。しかし木を奉って何になるというのだ。しばらくあって突然彼の(こういう馬鹿も男に決まっている)脳裡に天啓のごとくひらめくものがあった。
「そうか。棒だ」
 彼は「木奉」を幅広に書かれた「棒」だと解釈したのである。そして彼は手紙を書いた。
「これは棒の手紙です」
 やがてまたそれが無差別に郵送される。ひとりの人間が受け取る。
「この手紙をとめた人間は棒になります」
 安部公房ではあるまいし、棒にされてはかなわない。彼は(くどいようだが、こういう手合いは男に決まっているのだ)恐怖におののいて、その文面を書き写すのであった。
「この手紙をとめたためにもう三〇人もの人間が棒になりました」
 こうして突然変異を遂げた「棒の手紙」は親である不幸の手紙を駆逐する勢いで広がっていったのだ。
 さて。話を変えよう。
 はやいもので私がこのページに文章を書いて一年が経過した。
 ここでみなさんに秘密を打ち明けよう。
 実は私はこのページの作者たるキースであってしかしキースではない。
 あれは一年前のことであった。
 私はふとした悪戯ごころを起こし、こんなメールを出鱈目に送り付けた。
「これは駄目のメールです。このメールを受け取った人は駄目になります。もうすでに五〇人の人間がこのメールを受け取ったせいで駄目になりました。お気の毒なことですが、あなたも近々駄目になってしまうでしょう。しかし、ひとつだけ駄目になるのを防ぐ方法があります。あなたの想像しうる限り最低に駄目な話を書いて、以下のサーバーに転送するのです。繰り返します。駄目になりたくなければ、駄目な話を以下のサーバーに転送するのです。そしてこのメールと同じ内容のメールを誰か他人に送ってください。それであなたは駄目になることから免れます」
 そして、その下にはサーバー名とID、パスワードを記しておいた。
 さて、その翌日私がそのサーバーに接続してみると、そこにはひとつの文章がしたためてあった。マンションの屋上から牛乳を撒く人間がいて困るという内容の文章であった。
 私はほくそ笑んだ。思いどおりに事が運んでいるではないか。
 それからというものページにはどんどんと駄目な話が増えていった。どうやら、私のメールは着実に世界を駆け回っているようだ。
 不思議なことに、この間文章が途絶えたことがなかった。世間の人びとは余程駄目になるのが恐いと見える。
 そうして一年が経過した。
 私自身把握しきれないくらい実にたくさんの人間がこのページに好き勝手な文章を書き散らした。
 ところで、さきほど私がこのページに接続してみると、「馬鹿ポエマー姉」というキャプションが添えられた女性の写真が一葉表示された。見るからにポエマーな人の写真だったので、私はつい笑ってしまった。おそらくは五十八番目のキースの仕業であろう。
 しかし、ここは写真を載せるページではない。私はその写真を削除した。
 削除してほっとしているのも束の間、すぐにまた別の写真が転送されていた。股間に白鳥の首のついたチュチュを着用して踊っている男性の写真であった。あまりの気持ち悪さに私は吐きそうになりながらも、何とかその写真を削除した。これは百六十三番目のキースの仕業であり、映っていた男も彼自身なのだろう。
 たぶんこのふたりのキースは一周年記念特別企画大イベントというつもりで写真を公開したのだろう。しかし、私の意図するところは残念ながら写真ではない。駄目な文章なのだ。確かに姉ポエマーはかなり駄目であるし、股間に鳥の首のチュチュもずいぶん駄目である。だが私が期待するのはあくまで駄目な文章なのだった。
 そして今私ははじめて自らしたためた文章をここに掲げるのであった。
 いかがであろう。このページのからくりがお判りいただけたであろうか。すなわちキースなどという人間はいなかったのだ。あるいは、私自身が本物のキースであって、しかもキースではない、とも言えるのだ。
 さて、秘密を明かしたところで、そろそろ私は筆をおくことにしよう。
 今後もこのページにはますます駄目な文章が増え続けてゆくことだろう。
 もしかしたらあなたもいつか、こんなメールを受け取るかもしれない。
「これは駄目のメールです」
 もしあなたがそんなメールを受け取ったなら、悪いことは言わない、このページにできる限り駄目な文章を書くことである。
 そう。明日のダメ人間キースはあなたかもしれないのだ。 


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1998/10/14
文責:keith中村
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