第162回 蕎麦ときしめんとうどん


 立てば芍薬座れば牡丹二十歳過ぎればただの人という諺があるが、私も幼い頃は神童と言われたものである。
 一度こんなことがあった。五歳くらいの頃であったと思うが、夕方私がテレビを見ているとき、叔父が訪ねてきた。叔父は私を見るなり目をまんまるに開いて驚いた声で言った。
「ひゃあ。この子、ニュースなんか見とるがな。天才やがな。神童やがな」
 通常、子供はニュース番組など見ないものだから叔父は吃驚したのだろうけれど、その頃私はニュースを見るのが日課になっていた。といっても世界の動き政治経済に興味があったわけではなく、夕刻のそのニュース番組に出ていたアナウンサーのお姉さんがとても綺麗だったので、彼女目当てで見ていたのであった。この色餓鬼が。
 さて、神童と言われた私はいつの間にやら駄目人間と成り下がったのであるが、神童の話はさておいて、進藤さんの話である。進藤晶子さんである。ご存知であろうか。TBSに勤務するアナウンサーである。この進藤さんが、私の中で近ごろ赤丸急上昇なのであった。進藤さん、たいそう可愛くて。進藤さん、たいそうお綺麗で。
 そんなわけであまりテレビを観なかった私が最近はかかさず見ているのが「ニュース23」なのである。そう、筑紫哲也の隣で笑顔でニュースを読み上げているのが話題の進藤さんである。といっても間違えてはいけない。右隣ではない。あれは男だ。左隣の麗しい女子の人の方、それが進藤さんなのであった。進藤さん目当てでこの番組を見ておるのであるが、何のことはない、私という人間は五歳の時分から進歩していないではないか。
 ところで話はがらりと変わるが、大きな発見をしてしまった。麺類に関しての発見である。
 さて、あなたは食物を噛み切るときにどういう具合にするであろう。
「どうするもこうするも、噛み切るといえば上の歯と下の歯を合わせることによってその間に挟まれた食物を切断することに決まっているではないか」
 あなたはそう仰有るだろう。そう。それはまったく正しい。
 では重ねて問う。あなたは麺類を噛み切るときにどういう具合にするであろう。
「何を言っておるのだ。麺類だろうが何だろうが、同じことではないか」
 そう仰有る前によく考えていただきたい。本当にそうだろうか。もしかしたらあなたの麺類噛み切り法は間違っていやしまいか。
 私の発見とはその点にある。実は我々の「噛み切る」行為はどうしたことか麺類においてのみ特殊なものと化するのである。
 私が独自に調査しただけでも、麺類の噛み切り方には驚くべきことに以下の十通りもの方法があるのだった。

 1.通常どおり上の歯と下の歯で切断する。
 2.上の歯と舌の間に挟んで切断する。
 3.上唇と舌の間に挟んで切断する。
 4.上唇と下の歯の間に挟んで切断する。
 5.上の歯と下唇の間に挟んで切断する。
 6.上唇と下唇の間に挟んで切断する。
 7.何言ってやがんでいっ。噛まずに一気に飲み込むのが通ってえもんでいっ。
 8.ええと。あの。ぼく、鼻の穴から吸っちゃうんですけど。えと。これってやっぱり変ですか。
 9.麺類は食べたことがない。
 10.麺類がなければケーキを食べればいいじゃないの。

 恐らくRFCに違反しておるであろう八番を除外してもかなりの数である。私は二番目の方法を用いておるのだが、あなたはどうですか。一体どうして麺類に限ってこれほどまでに個体差が見られるのであろうか。
 思うにこれは遺伝ではなかろうか。いや、遺伝です。間違いない。
 遺伝というと瞼が一重か二重か八重かとか、耳垢が乾性か粘性かとか、そのあたりが有名だろうが、へえこんなものもそうなのか、というものまでが遺伝だったりするから侮れない。高校の生物の時間に、掌を合わせて指を組むとき右手と左手のどちらが上になるか、というのが遺伝だと聞いて吃驚したことがある。私は右手が上にくるように組むのだがこれが反対になるといささか気持ちが悪い。自分の手なら敢えて気持ち悪い方にしなくてもよいのだが、女子の人とお手手をつなぐとき、ことによるとお互いが「ああん。逆だよう。気持ち悪いよう」という思いをせねばならぬことだってあるのだ。女子の人とお手手をつなぐのが大好きな私にとってこれは非常に大きな問題であると言わざるをえない。過去を振り返ってみてもこのお手手の相性がよくなかった女子の人とは長続きしなかったし。ぐすん。
 そんなことはどうでもいい。
 とにかく、麺類を噛み切る行為だけがなぜ特異なのか、これは研究に値するのではなかろうか。若き優秀な研究者の登場を待ちたい、と私は願うのであった。
 ところで。
 さっきの麺類を噛み切る十の方法を読んだとき、あなた、自分はどうしてるかなあって画面見つめたまま唇とか歯をむにむにむにっと動かしてみたでしょ。ね、ね、やったでしょ。
 それって周りから見てかなり変ですよ。


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1998/09/27
文責:keith中村
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