第151回 寝た子を起す


 このあいだの話を蒸し返す。
 エロ漫画料理漫画はあれど世に睡眠漫画のなきことよ、と書いたのだが何人もの方から、「すでにある」というご指摘をいただいた。相原コージと武熊健太郎による「サルでもかけるまんが教室」の中にあるのだそうだ。この作品は、売れる漫画はどうすれば描けるのかを論じたもので、要するに「漫画で判る○○入門」の類を茶化しているのだが、通称「サルまん」という。作品は「これが売れる漫画だ」という具体例として劇中劇のように漫画が挿入される構成になっているのだが、その中に「眠り人眠太郎」というのがあったのだそうだ。私は実はこの作品が雑誌に連載されていたときにちらほらと読み、有名な「とんち番長」という挿話があることは知っていたのだが、通読したことがなかったので睡眠漫画が出てきているとは知らなかった。
 この漫画は私が学生だったころ雑誌に連載されていたもので、私が最近になって思い付いたことを、とうの昔にやってしまっている、というプロの凄味を実感すると同時に自分の勉強不足を痛感した。
 しかし、漫画にはまだまだ前人未到のジャンルがきっとある筈だ。
 そう思いあれこれ考えを巡らしてみた。
 基本的に、売れる漫画というのは同じような構造をとっているものだ。その構造とは古えのスポーツ根性もの以来連綿と続く「主人公とライバルの対立」という単純なものであり、やや細かく区切っても「同じライバルと、どんどん過酷な状況で対決するようになる」という「ガラスの仮面」や「おいしんぼ」パターンと、「どんどん強いライバルが登場する」という「ドカベン」「ドラゴンボール」パターンに分かれる程度である。
 この王道パターンに則れば、どんな話であろうと売れる漫画が実現する筈である。
 そこでまたひとつ思い付いたのが、「古今東西連太郎」である。今度こそ、誰もいまだかつて踏込んだことのないジャンルであると自負している。しかも愛と友情の涙の物語である。ほんとほんと。
 ただし、残念なことに以前にも書いたように私は漫画を描けない。私の描いたドラえもんは、ドラえもんの臨界点をいともたやすく乗り越えて下手の極北となってしまうのであったが、本日は私の絵が下手であることのもうひとつの証左を呈示する。
 コンピュータで日本語を入力するときには仮名漢字変換の仕組みを用いるわけだが、中にはキーボードではなく、画面にマウスで書いた文字を判別してくれるIMEもある。所謂手書き入力というやつで、「あ」と書けば「あ」と反映されるのだ。たとえばMS−IME97というIMEにはその機能があるのだが、先日私はその手書き入力枠にためしにドラえもんの絵を描いてみた。本来は文字を書く場所であるが、ドラえもんをかくとどうなるか、実験してみたのだ。そう。性懲りもなくドラえもんである。マウスを使ったわりには我ながら上手にできた。三歳児の描いたドラえもんよりはずっとよく描けたと思う。そこで、わくわくしながら変換ボタンで候補の漢字を表示させてみた。
 すると。
「違」
 画面には「違」と現われた。どういうことか。
 そりゃ、私のドラえもんは確かにお世辞にも上手いとは言い難いだろう。それにしても人が機嫌よく「うまくかけた」と喜んでいるところにもってきて、それはちょっと酷いのではないか。違う、の一言で終わりなのかい。僕たちの関係はそれだけだったのかい。ああ、冷たい。氷のようだよマイクロソフト。
 などと嘆いていても詮無いことなので、「古今東西連太郎」の粗筋を発表する。
「古今東西」という遊興はご存じだろう。「古今東西、自動車の名前。カローラ」「セリカ」「ベンツ」「ポルシェ」「インテグラ」と続けてゆき、詰ってしまうか、重複したものを言うと負けになるというあれである。

 名うての古今東西師夫妻の間に生まれた連太郎は何ひとつ不自由なく幸せに暮らしていた。ところが、ある日連太郎が学校から帰ってくると両親が何者かによって惨殺されている。次回の古今東西コンテストに備えて訓練していたところを襲われたのである。嘆き悲しむ連太郎。結局、連太郎は両親の師であった古今東西仙人にひきとられることになる。

 手抜きだ、などとあらぬ疑いを抱かれては心外である。先に書いたように、売れる物語の構造はどれもこれもよく似ているものなのだ。それにしてもコピー・アンド・ペーストって楽だな。いや、こっちの話。

 睡眠仙人は言う。
「おまえの両親を殺したのは、多分トーザインの手先じゃろう」
「何ですか、トーザインというのは」

 このあたりは端折ってもよいだろう。あっ。「睡眠仙人」のままだ。ま、いいや。
 もしかしたら、古今東西なんて下らないもので、どうやってドラマを盛り上げるのか訝しむ方もいらっしゃるだろう。侮ってはいけない。連太郎の古今東西は我々のものとは質が違うのだ。
 たとえば。
「古今東西、人間国宝の名前。徳田八十吉」「中村鴈治郎」「金森映井智」「隅谷正峯」
「古今東西、カップラーメンの原材料名。パプリカ色素」「粉末油脂」「クチナシ色素」「増粘多糖質」
 いかがであろう。その水準の高さをご理解いただけたことと思う。増粘多糖質なんて、何だかさっぱり判らないぞ。

 そして、数々の戦火や修羅場をくぐりぬけ、連太郎は今、トーザインの首領今田古之介と対峙している。
「ふふふ、連太郎。よくぞここまでたどり着いたものじゃ」
「古之介。お前の好きなようにはさせぬ」
「ぐわははは。猪口才な若僧が」
 連太郎危うし。
 しかし実は連太郎、この日のために古今東西仙人から教えられた恐るべき最終兵器、「七曜の術」を修得していたのである。
「つべこべ言わずに勝負だっ、古之介。行くぞっ。古今東西、曜日の名前。月曜」
「火曜」
「水曜」
「木曜」
「金曜」
「土曜」
「日曜」
「……うぬっ。もう、ないよう……。うぐあっ」
 どかあん。
 お約束の如く爆発する今田古之介。
 かくして世界の安寧秩序は守られたのであった。よくやった、連太郎。でも、それってかなりズルいぞ。
 よいこのみんなは真似しちゃ駄目でしゅからねー。


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1998/08/19
文責:keith中村
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