第150回 社交女子


「社交女子」とはどういう意味であろうか。
 これが「社交的女子」あるいは「社交的な女子」であれば話は早い。それならば「人、世間との付き合いを好む外向的な女子の人」という意味であろう。人当たりのよい女子の人ということであろう。「なによ、あの子。あんなの八方美人じゃない」などというあまり外向的ではない同性からの反撥を受けることになるかも知れぬが、男性からすればたいそう感じのよいものである。
 だが、「社交女子」となるとなんだかよく判らないことになってしまうのであった。
「大阪スポーツ」という新聞がある。同様のものは関東方面にもあろう。人の口にのぼるときには、百回のうち九十九回くらいは「大スポ」と略される宿命にある報道媒体であるところの「大阪スポーツ」である。略され率でいけば、木村拓也の「キムタク」、南満州鉄道の「満鉄」をも大幅に引き離して堂々上位にランク付けされるであろうその「大阪スポーツ」紙が私の部屋に転がっている。競馬好きの知友が我が家に立ち寄った際に置き忘れていったものである。
 私はそれを何気なく読みはじめた。私は自分の金銭で「大スポ」紙を購ったことはない。そもそも所謂三大新聞をはじめとする通常の新聞ですらとっていないのである。考えてみればそういったスポーツ新聞を熟読する機会はこれまでに一度もなかった。
 そしてある頁にあった言葉が目に飛込んできた。それが「社交女子」である。
 求人欄であった。その頁の下五段を占めるその欄には俗に三行広告と呼ばれる求人の告知があまた犇めいている。三行広告といっても、実際には四行や五行のものもあり、最大では二十八行分を占有するものまで掲載されている。そしてそれらのすべては書かれている最初の二、三文字が通常のポイントよりも寸法で縦横二倍、面積で四倍というひときわ大きい文字となっておるのであった。西洋の古書などでは段落の頭一文字がバナーと称する大きな花文字になっていることがあるが、それとよく似ている。おそらくはアイ・キャッチャーというか、読者の眼を引き付ける機能になっているのであろう。
「社交女子」という求人欄を私はざっと眺めた。その大きなポイントの文字がやはりまず眼に飛込んでくる。
「急募」「急!!」「高収入」「即高収」
 こういったものが主体である。仔細に眺むれば「急募コンパニオン募集」であったり「高収入稼げるホステス募集」であったりする。ここに至って私にも状況が理解できた。「社交女子」なる呼称は、いわゆる風俗に携わる女子の人のことであったのだ。
 私が知っていた語彙としての「社交」には上流社会の匂いがあった。いわく「社交界」「社交服」「社交ダンス」である。「社交ダンス」はちょっと違うかもしれぬが。しかるに風俗産業に従事する女子の人を「社交女子」と呼ぶのはいささか感覚的に違和感を生ずるのである。私は何もそういった職業に従事する女子の人をことさらに低くみなすような古風な人間ではない。しかし私の言語感覚としては「社交」の使われ方に大きな落差を感じるのであった。
 しかし、そんなことはどうでもよい。
 問題はその広告どもの、頭数文字つまり先ほど述べた、大きなポイントになっている文字なのである。
「急募」はいいのだ。「高収入」も構わない。それらは、アイ・キャッチという広告の基本的本質的機能を十分に果たしていよう。
「リニ」とは何だ、「リニ」とは。
 通常のポイントの活字まで続けて読めばなるほど「リニューアルオープン」であったか、と理解できる。だが、リニューアルのはじめの二文字だけを大きく「リニ」と書くのはちょっと違うのではないか、という気がする。
 それに「どん」とある。何だ、どん、とは。「どんどん稼げるコンパ嬢募集」なのであった。これも違うような気がする。
 あっ。そんなことはないのか。現に私はそれらの活字に引寄せられて全文を読んでしまったのだ。つまり、これらの広告は敢えて妙な部分のポイントをあげることで、人の注意をひくという広告の機能を全うしておるのだ。なるほどそういうことであったか。
「M嬢」が眼に入った。「M嬢急募素人歓迎詳面」とある。「詳面」は「詳細は面接にて」であろう。M嬢というのはマゾ嬢ということなのであろう。これが「M娘」なら「モーニング娘。」の略だ。「。」が必須なのだそうだ。そんなことはどうでもよい。そもそもそんなものは募集しないのだから。
 同様のものに「女王様募集!!20歳以上」もあった。
 ものすごいことになっている。年頃の女子の人はよく「いつか白馬に乗った王子様がやってきてくれるの」などと夢想するようだがその「王子様募集!! 白馬同時募集」というのと似ていそうで全然違うのだ。
個性的コンパ嬢募集」というのは、どういった人材を求めているのだろうか。「あのねー、なんかねー、頭の中で声がするのー。電波がねー、うるさいのー。えへらえへらー」とか、そういう逸材だろうか。それはちょっと個性的過ぎやしまいか。他人事ながら心配である。
超多忙コンパニオン急募!!」も心配である。超多忙などという惹句で人がくるのだろうか。仕事は暇なほうがいい。
清楚コンパ嬢日払」とは、どういう了見か。どうせああんなことや、こおんなことや、何ならああんなことまでさせるのだろう。何ということだ。清楚な女子の人に、そおんなことをさせるなど言語同断ウルトラクイズではないのか。おじさんは、おじさんは許しません。ええ、許しませんとも。
「恋し」というのがあった。何だ、と思い見ると、「恋しい面影コンパニオン募集」と書かれている。何だ、これ。「あのう、求人広告みて来たんですけど。私、恋しい面影なもので」とか、そんなことがあるのだろうか。見てみたい、恋しい面影とやら。
 そんなわけで、社交女子の世界はなかなかよく判らないことになっているのであった。
 ついでだから、私も求人してみよう。
手をつないで一緒に眠ってくれる清楚で可愛い女子の人募集。18〜25歳。悪いようにはいたしません」


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1998/08/17
文責:keith中村
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