第14回 携帯


「近ごろは猫も杓子もケイタイ持ってますなあ」
「はああ。そんなもの持ってますか」
「持ってるでしょうが。電車のなかやら喫茶店やらで、ねえ」
「そうでんのか。知りまへんでしたわ。そんな時代によう写真ありましたなあ」
「君、もしかしたらなあんか、勘違いしてまへんか。何やと思てますんや」
「なんやてキミ、継体天皇の写真集でっしゃろ。そんなんみんな持ってますかあ」
「何言ってんだよう。そんなもんあるわきゃねえだろがっ」
「わあっ。びっくりしたがなもう。なんでいきなり関東弁になりますねんな」
「なんか、こういう突っこみが流行ってるみたいなんで、やってます」
「なんや妙な人でんなあ」
「話戻すんやけどな。ケイタイいうたらあんた、ケイタイ電話ですがな」
「ほおほお、あの喋り方がですます調になってまう電話ですな」
「そうそうそう。ああ、もしもし。私組長でございますが、あのお方、コンクリートに詰めて南港に沈めてくださいね、なんて叮嚀になったりなんかしてね。って、そりゃ敬体電話じゃねえかっ。しかも突っ込んだけどそんなもんねえんだよっ
「ありまへんか」
「ない」
「いやあ、こりゃ失敬失敬」
「明治時代の書生はんか、君。ケイタイいうたら持ち運べる携帯電話に決まってまんがな」
「ああ。携帯電話でっか。それやったらそうといいなはれな、もうややこしい」
「ややこしうしてんのは、君やがな。ほんまにかなんわ」
「あれは困りますなあ」
「困ります。場所柄弁えずにプルプルと」
「いやいや。そんなん困りまへんがな」
「何いうてんねん。あのやかましいのんいうたら、ほんまかなわんがな」
「そんなん、君とこの雌豚のほうがよっぽどうるさいがな」
「ありゃ、うちの嫁じゃ。失礼やな、君」
「ああ、そやったんか。ちっとも知らなんだ。珍しい生き物飼ってるなあ。趣味なんかなあ、と思てた」
「ほんまに君、怒られるで。まあええわ。そしたら、君は何が困るというんや、携帯電話の」
「ケイタイっていうんが困る」
「ケイタイはケイタイやんか」
「ほう。そしたら、君は真空掃除機のことを真空ちうんか」
「こらまた、古いこというなあ。いまどき真空掃除機なんて言わんぞ」
「そしたら、腕時計は腕か」
「腕時計は腕時計やがな」
「携帯電話をケイタイちうんやったら、腕時計は腕か。柱時計は柱か。振子時計は振子か。懐中時計は懐中か」
「ぽんぽんぽんぽんいうなあ」
「電気洗濯機は電気か。現金書留は現金か。収入印紙は収入か。定期乗車券は定期か。……これはええがな」
「何ひとりでいうてんねん」
「スリジャワルダナプラコッテは掏摸か。エロマンガ島はエロマンガか。ダマンスキー島はちんぽか」
「うわ、えらいこといいよるなあ。怒られんで、仕舞いに。しかもなんか趣旨が違うぞ」
「ええい、うるさい、うるさい。犬印妊婦帯は犬印か。象印魔法瓶は象印か。印半纏は印か、印度カレーは印度か」
「君な、そんなんどうでもええことやんか」
「何いうとるか。国語の乱れは国の乱れなるぞ」
「なんや、腕ぶうんぶうん振り回してるで、この人」
「わたしワー、言葉オー、不当ニー、略すルー、べきでワー、ないトー、思うのダー」
「演説口調になってきやった」
「言葉オー、省略しター、輩にワー、私有財産ノー、没収オー、以っテー、償わせルー、べきなのダー」
「君はアカか。財産の没収て、あんまりやろ」
「いいや。そんなことあらへん。省略の見せしめに奪うくらいはしないとあかん。なにしろ昔からいうがな」
「何て」
「略奪」
「……」
「……」
「……あのお、もしもし。それはもしかしたら。……俄ですか」
「俄ですワ」


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1997/11/05
文責:keith中村
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