第126回 豆知識


 私が幼い頃に読んでいた子供向けの科学雑誌や科学書の欄外には必ず、豆知識というものが載っていた。
 「きょうりゅうのふしぎ」という本であれば、

【まめちしき】ステゴザウルスは10メートルちかくあったのに、そののうは小犬より小さかったんだぞ。
【まめちしき】ブロントザウルスはたいちょう25メートル。きみたちが20人手をつないでもかてないぞ。

「しょくぶつのひみつ」ならば、

【まめちしき】おこめはずっとかんでいると、あまくなるよ。おやつのかわりにたべてみよう。
【まめちしき】だいずは、たんぱくしつがほうふなので「はたけのお肉」といわれてるんだ。これがほんとの「まめちしき」だね。

 そういった雑学めいたものがページの袖か下に載っていたものだ。幼い頃から蘊蓄を好む傾きの私は、貪るように読んだ。こういう豆知識の類は、たいてい子供に呼び掛けるような文体で書かれていた。思えば豆知識というのはたいてい知っていてもいなくともどっちでもいいような瑣末な情報であった。社会で生きてゆくための何の足しにもならぬ無益な情報ばかりであった。だが、だからこそ豆知識は素晴らしかったのだろう。かつて人間がまだ猿のように生きていた時代にはすべての情報は生死を分けた筈だ。
「この実は食べられる」「この虫には毒がある」「あの淵は深くて危険」
 そういった情報をよりたくさん知っているものが生存競争に勝ち抜く資格を持っていた。
 もしその時代にしたり顔で「この気持悪い虫、おれ、数えた、脚、百本、ある」などと言う者がおれば、それは嘲笑の的にしか成り得なかったろう。
「ははは。馬鹿、言っている。あの虫、噛む、腫れる、危険。それだけ知っている、それ、充分。あと、無駄」
 時代が下り、人が文明を持つようになったころから、我々は生活に、また心に脳に、ゆとりを持ち、もっと無益なことに時間を割いてゆかれるようになったのだ。
「王冠と金塊は形が違う。でも同じ重さなら同じだけの水を溢れさせる」
「なるほどそれは面白い。何だか判らないが凄いことだ」
 大上段に構えて言えば、豆知識は学問の持つ「素晴らしき無駄」の本質を子供たちに教えてくれる良き教師であったのだ。ところが、馬齢を重ね、自分のあずかり知らぬところで様々な社会的責務を負わされ、口に糊するために歯を食いしばり労働する日々をくり返すうち、気がつけば私は豆知識から随分遠いところにやってきてしまった。今や、どんな出版物を開いても重要な情報、または発信者が重要だと思わせたい情報ばかりが犇めき合い、心のゆとり本当の豊かさ都会のオアシスたる「豆知識」などどこを捜してもありはしない。
 私は渇望する、これら氾濫する出版物に豆知識のあらんことを。豆知識を渇仰するのだ。
「佛の友」という雑誌があったとしよう。その各頁の欄外はこんな豆知識で彩られていることだろう。

【豆知識】仏陀はご自分の子供にラーフラと名づけられた。これは「邪魔者」という意味だ。かつて騒がれた「悪魔」ちゃんもびっくりだね。
【豆知識】浄土宗なら南無阿弥陀仏を唱えるだけで浄土へ行けるゾ。怠け者の君にはぴったりかな。

「週刊キリスト」はこんな具合だろう。

【豆知識】イエス様がお生まれになったとき、やってきた東方の三賢人の名は、カスパール、バルビツール、キシリトールだったんだ。
【豆知識】宿題を忘れたり、おねしょをしたりする悪い子は、神の怒りにふれて塩の柱にされちゃうぞ。

「物真似フレンズ」ならば、

【豆知識】ブルース・リーの物真似はよく「あちょー」ってやるけど、本当は「あたー」って言ってるんだぞ。友達に自慢してやろう。
【豆知識】鳳啓助の物真似は「え」の口で「いー」と言うと、上手にできるらしいぞ。

 最後に。
「のけぞり失神倶楽部」という雑誌があるとする。結局下ネタに走ってしまうのだが。下品な話の嫌いな人はここで中断されたい。またそっちの話か、という声が聞こえてきそうだが、なに、構うもんか。今回は普段より硬い文体でここまで来てしまったからストレスが溜まっているんだ。ええい、開き直ってやる。
 わははー。そうだ。俺はエッチだぞー。エッチ大王だぞー。わーいわーい。エッチだエッチだ。もみもみー。もみもみー。もみもみしちゃうぞー。チュッチュ大好きー。エッチなんだぞー。女子の人なら文章読むだけで妊娠しちゃうぞー。気を付けろー。わははー。まいったかー。わははー。わははー。ちんぽ。
 ぜいぜい。これくらいで、いいかな。充分開き直ったんで、行ってみよう。

【豆知識】生理の女の人がお風呂に入ると、湯の中に血が球状になってふわふわ漂っちゃうんだよ。
【豆知識】指を入れるときには、あんまり激しく突くと、粘膜が傷ついちゃって女の子が可哀想だからやめようね。
【豆知識】陰核は別名、陰梃ともいうんだぞ。これがほんとの「豆知識」だね。
 


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1998/06/28
文責:keith中村
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